21.蒲公英色
「…やります」
「ん?何聞こえない。」
「俺、やります。生徒会の仕事。何でもきっちりこなして見せます。」
「どういう心境の変化かな?」
聞き捨てならない単語をいろいろと連発された俺は苛々のピークに達しており、気付けば先輩にそう言葉を返していた。みんな知らないだろうけど、俺、すっごい負けず嫌いなんです。で、もしかしたら結構短気かもしれない。
「まあ、君がそういうならもう少し手伝ってもらおうかな。もうすぐ体育祭だし、いろいろ忙しいからね。」
あれだけ引っ張っておいてあっさりと、じゃあよろしく。と告げられてから、ちょっとだけ後悔したのは言うまでもない。
×
「馬鹿じゃないの」
「馬鹿じゃないよ」
「いや、お前は馬鹿だね」
翌日、全然顔を出せていなかった部活の朝練に参加した帰り。渡辺に昨日のことを話したらありえないとでも言いたげに顔を顰められ、馬鹿呼ばわりされた。一応言い返しといたけど、正直なところ一晩明けてから自分で自分のことを馬鹿かもと思ってしまったのはここだけの話だ。
「だって、あんな言いかたされて辞めたら負けた気がするだろ」
「いいじゃん別に負けたって」
「やだよ。俺が負けず嫌いなの知ってんだろ」
「そもそも勝ち負けの話じゃない。」
ごもっともです渡辺君。
そんな話をしながら2人で教室に向かっていれば、何やら掲示板の前に人が群がっているのが見えた。
一応この学校にも新聞部というものが存在していて、記事が出来たら掲示板に張り出されるのだが、何でも今の新聞部は廃部寸前で2人しかいないらしく今では不定期に校内新聞を出しているくらいだ。
だから掲示板に群がる生徒たちを見て、俺と渡辺はほぼ同じタイミングで顔を見合わせた。何か、スクープだろうか?
するとその記事を読んだのであろう生徒同士の会話が耳に入ってきて俺と渡辺は思わず立ち止まった。
「生徒会長と星山って、兄弟じゃなかったんだ。びっくり」
今、ありえないフレーズが聞こえたのは俺だけか?横をみれば同じくこちらを見る渡辺。どうやら幻聴ではないらしい。
「星山って、隣のクラスの星山?あの2人兄弟だったんだ。」
「そうだよ、お前知らないの?よく食堂で飯食ったりしてたじゃん。」
「え、生徒会長と飯?!すげえな」
「いや、まあそれも兄弟だからって許されてたけど」
「あーなるほど…、つまり今回の記事のせいで、これから会長と一緒にいるとこ見られたら、会長ファンが黙っちゃいないってか」
もしかして――、というかもしかしなくとも、俺ついに新聞の一面飾っちゃった感じ?
「…碧」
「…渡辺、とりあえず俺、どうしよう」
あのまま廊下を突っ切れば好奇の目に晒されること間違いないので、思わず渡辺と2人、トイレの個室に逃げ込んだ。…2人で入る意味は、特になかったと思う。
「…まずいんじゃないの、アレ。」
「やっぱまずい状況なのか」
「まあ、ほとぼり冷めるまでは好奇の視線に晒されるだろうな。しかも、生徒会を手伝ってるこのタイミングでコレは、会長ファンにかなり反感買うんじゃね?」
「え、やだよ。渡辺どうしよう」
「どうしようもないな。諦めろ。」
軽くパニックになりながら助けを求めたのに、あっさりかわされてしまった。ああ、そういや渡辺ってこういうやつだった。忘れてた。
「せめて、生徒会手伝うの辞めれば。」
「えー…それは俺のプライドが許してくれない」
「めんどくせえプライドの持ち主だなお前」
だってあれだけ、強気ではっきりきっぱり手伝います!と宣言したくせに今更やめます!だなんて…。ムリ!俺には出来ないよ渡辺!
そんな俺を見て渡辺は呆れたようにため息をついた。