20.アザーブルー



「あ、来たね。」

「無理矢理呼び出したくせに」




 副会長の電話でほぼ強制的に生徒会室に出向いた俺は意外とご機嫌な副会長に出迎えられた。もっと嫌み言われるかと思ったのに。

 放課後の生徒会室にはまたしても副会長のみ。・・・あ、そういや今日委員長会議だっけ。ユキの代行すっかり忘れてたけどアイツ今日はちゃんと会議出てんのかな。そもそも大輔先輩とはその後結局どうなったのか聞いてないんだが、気になるから後で聞いておこう。

「はい、これ。」

「あ」

 手渡されたのは昨日忘れて帰った俺の鞄。そういえば存在をすっかり忘れていた。軽くお礼を言って受け取ると、宮下先輩は少し口角を上げてこっちを見る。


「昨日、急に出ていったらしいじゃないか。鞄忘れて帰るほどの急用でもあったのかな?」

「・・・あー、いや」


 んなもん、千秋と気まずくなって――なんて言えるわけがない。そう言われてみれば頼まれていた書類も結局途中で放り出したままだったような・・・。少し申し訳なく思いながらも返す言葉が思い浮かばず言葉を濁す。


「星山君は泣くほど生徒会が嫌だったんだね」

「…は?」

「昨日“たまたま”見ちゃったんだよねー。急に生徒会を飛び出してそのままグズグズ泣いてる君を、さ。」

「はぁ!?」


 しれっとそう言う副会長に思わず声を荒げる。まさか昨日の情けない姿を見られてたのか…?!渡辺しかいないと思ってまさに言葉通りグズグズと泣いていたわけだけど、何でまたよりによってこの人が知ってるんだよ!

 軽くパニックになっている俺を相も変わらず楽しそうに見ている宮下先輩。

 …待てよ、まさか。
 先輩は俺と千秋が兄弟じゃないことも知ってるし、ギクシャクしていることも知ってる。で、この反応ってことは、まさかこうなることを知ってて昨日俺に書類整理させてた、とか…?さ、さすがに違うよな?会話中の“たまたま”という部分が嫌に強調されて聞こえるんだが。


 真意はどうかわからないけれど、とにかく泣いてるとこを見られたらしい情けない俺に向かって先輩は言葉を続ける。勿論笑顔で。


「いいよ、辞めても」

「え?」

「生徒会。俺が無理矢理誘っちゃったのが悪かったんだよね。泣くほど嫌だったんだろ?ごめんね」


 予想外すぎて声が裏返った、恥ずかしい。え、ちょっと待ってくれよ。話が飛躍しすぎてわけわかんない。辞めていいの?あんなけ強引に生徒会に参加させといて?いいのかよ。なんて勝手な。

 何か言おうと思って口を開いたが、最早どこにどう突っ込めばいいのかわからなくて結局何も言えず鞄を握りなおした。

 ん、どういう展開?わかんね、落ち着け俺。


「とりあえず、俺泣いてないですって。」

「隠すなよ、“たまたま”通りがかったんだって」

「さっきから“たまたま”ってすっごい嘘くさいんですけど!ほんとに、生徒会云々で泣いたんじゃない――」

「やっぱ泣いたんじゃないか。」


 あ、墓穴掘った。俺って馬鹿だ。


「じゃあ何で?生徒会のせいじゃないなら、何で泣いてたの?」

「・・・だから泣いてないって」

「千秋のせい?」

「・・・」

「ああ、図星。」



 爽やかに笑う先輩がほんとに悪魔に見える。

 ちょっと待ってくれよ、訳のわからないままあれよあれよと生徒会補佐なんてやらされて謝って欲しいくらいなのに何でこんなに詰られなきゃなんないんだ…だいたいもうすぐ大会も近いのに部活には行けないし。文句言いたいのはこっちなんですけど!

 もう先輩の言葉は無視だ無視。落ち着いて考えて、辞めれるんなら辞めとくべきだよ。ここで。そうすりゃ“千秋に会わなくてすむ”

逆を言えば、また、“千秋に会えなくなる”



 …うん、いいんだけど、さ。

 はっきりしない俺を見た先輩は小さく鼻で笑って生徒会室の窓から外を眺めた。



「まあ、はっきり言って君の代わりなんていくらでもいるんだよ。」


 さすがに今のはすっごいムカついた。ねえ殴ってもいい?
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