次の日、久しぶりに登校した俺の目に入ったのはいつも通りの学校風景だった。どうやら新聞の一面は飾らなかったらしい。とりあえずひと安心。
しかし時間というのはあっという間に過ぎるもので、授業は滞りなく終了、いつの間にか憂鬱な放課後だ。
ユキはといえば「じゃよろしく!」と一言残して、そそくさと帰っていった。
畜生あの野郎、今度絶対なんか奢ってもらうからな。
溜め息をついて、鞄に荷物を纏めたところでちょうど委員会集合を促す放送が入りとりあえず教室を移動する。
確か会議室は3階だ。
階段を上がって足早に歩く。廊下にはまだちらほらと3年の生徒が残っており、2年の俺は少し肩身が狭い。出来るだけ隅っこを歩いていると後ろからガシッと音がしそうなほど強く肩を捕まれた。
「ぎゃっ」
思わず出た間抜けな声を何とか誤魔化そうと、バッと後ろを振り向けばそこにはイタズラが成功したと言わんばかりににぃっと笑った性悪野郎・・・、もとい弓道部部長の新崎先輩が立っていた。
とりあえずカツアゲとかじゃなくてよかった・・・ってどんなけビビリだよ俺。
「ちょっと!脅かさないで下さいよ先輩」
「ええやん、ちょっとくらい。それより碧こんなとこで何しとん?」
「・・・委員会なんです」
ちょっとくらいってなんだ、そのちょっとで死んだらどーしてくれる。キッと睨むが、先輩の方が背が高いので必然的に俺が見上げる形になっているのが悔しいところだ。
そんな俺を気にすることなく、見下ろした先輩は、あれ?と声をあげて疑問をぶつけてきた。
「え、碧委員長やったっけ?」
「いや、友達の代わりで」
「なんや、ほんなら今日部活休むんかいな。」
「いや、終わってから行こうと思ってます。」
「ほー、そら感心。さすが碧ちゃんや」
「ちょっと、ちゃん付けはやめろって言ってるでしょうが」
「お〜こわいこわい」
そう言うわりに顔も態度も怖がってないところがまたムカつく。至極軽い会話だが、新崎先輩とはいつもこんな感じ。
しかしこう見えて部活では冷静沈着で結構厳しい、そして弓道がめちゃめちゃうまい。
俺が密かに尊敬しているのは先輩には秘密。この人にそんなこと言った日には一週間はおちょくられること間違いないしな。
「じゃ、俺急いでるんで。また後で」
軽く挨拶して会議室を目指す。
先輩と話して忘れかけてたけど、これからのことを考えるとまた気が重くなってきた。
はぁ〜っと溜め息をついた俺の背中に先輩が思い出したように、「そうそう」と声をかけてきた。まだ何かあるのかよ、と軽く振り返れば先輩はまたにやりと意地の悪い笑みを浮かべた。
「ほな昨日自主練の時に壁に穴開けた話もまた後でな〜。」
「・・・・・すいません、休みます。」
どうやら今日は俺に安息の時は訪れなさそうだ。