07.杜若色



 渡辺の話によれば、出所は新聞部。しかも、この3連休が終われば、校内新聞の一面を飾るかもしれないらしい。


 畜生、恐るべきパパラッチ。もっと他に記事にするべきことがあるだろうに暇人め。



「どうしよう・・・」


 これは一大事、なんとかせねば。と1人頭を働かせていれば渡辺が首を傾げて「何が?」と、聞いてきた。


 何がって・・・
 訝しげに渡辺を見つめれば、またしても彼は至って真面目な顔をしてこちらを見ていた。





「だって、ほんとのことなんだろ?じゃあどうしようもなくね?」

「ゔ・・・」



 渡辺の言葉は全くその通りであり、今一度、自分がちゃんと受け入れられていないという事実をありありと突きつけられた気がして、俺は頭を抱えた。



 わかんねーよ、俺には全くわかんない!兄弟じゃなくなるっていったい何が変わるのさ!!



「もうわかんねぇ・・・、完全にキャパシティーオーバーだよ俺の頭ん中。」


 練習でスッキリしたはずの思考回廊にまたしてもモヤがかかり始めた俺は頭を抱えたままその場に座り込んだ。


 全く、とんだ3連休だ。
 そんな俺とは反対にユキは幸せな3連休を過ごしているに違いない。


 この差はなんだ!神様ちょっと不公平すぎやしないか。



 そうしてどんどん負のオーラを纏いつつある俺の頭を軽くぽんぽんと叩いた渡辺は、



「まあ、それだけ会長も本気ってことだろ。」


と、よくわからん言葉を残して更衣室に消えていった。






 ・・・なんか、
アイツまじで変わってるよな
というかよくわからん。




×




「ただい、」

「あおい〜!おそい〜!」

「え、何っ、おわっ?!」

「うわあああん」




 悶々としたまま部屋に帰ってきた俺を待っていたのは、涙で顔をぐちゃぐちゃにしたユキだった。




 おっと何この展開。







 とりあえず泣き止んだユキを落ち着かせて話を聞けば、なんとまあこの3連休で大輔先輩と大喧嘩したとのこと。普段から仲がよく、俺が知っている限りケンカなんかしたことがなかった2人が、なんでまた・・・。


 俺がケンカの原因を聞く前に、「理由は聞かないで」と涙に瞳を潤ませて言われてしまえばもう何も言えまい。




 未だグスグス言ってるユキを見て、こっちもこっちで大変だったんだなぁ―とぼんやり考える。


 この流れに乗って「実は俺も―、」と一昨日のことを打ち明けようとしたのだが、ユキが喰い気味でこちらに体を寄せてきたので思わず言葉を飲み込んでしまった。



 何何何、顔恐いんだけど!



 若干引き気味の俺を逃がすまいと肩を引っ付かんだユキは俺に爆弾を投下した。




「というわけだから、明日から始まる委員会、俺の代わりに出席お願いします!」

「はぁ・・・・っはあ!?何でだよ!」




 ありえない、何でまた俺が代わりしなくちゃなんねーんだよ!


 ああ見えてうちのクラス委員長を勤めるユキ。これからの季節は学内イベントが多数行われるため、それらの調整等でちょうど毎年このぐらいの時期から定期的に各委員長で会議が開かれるのである。

 その第一回目が明日だというのだ。


 そしてその会議には風紀委員、無論、生徒会役員も参加するわけで。





 つまりユキは大輔先輩と顔を合わすのが気まずいから俺にそれを代わってくれと・・・。



 ・・・ちょっと待ってくれ。
俺だって気まずいんだよ!

だって、
俺がそれに行く=千秋に会う=噂を知った周りからの好奇の視線の的=人見知り、小心者の俺死亡フラグ


 ああ、想像するだけでゾッとする。



「ぜってーヤダ!」

「俺だってヤダ!」

「お前は委員長だろーが!私情を挟むなよっ」

「嫌なもんは嫌なの!碧はいいの!?俺が委員会に参加することによって今の状況がさらに悪化して大輔と破局なんてことになっても!!・・・・大輔と、破局・・・うぅっ」

「待て、なんでそーなる!・・・っ泣くなよ!卑怯だぞこの野郎〜!」








 結局散々言い合った結果、一行に退かないユキの涙に根負けした俺は、千秋と兄弟じゃなくなったことなど何も言えぬまま、明日から当分の間委員会に出席することになりました、最悪です。

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