05.紺青

 結局2日目も、暇を持て余した俺は1日中読書で時間を潰した。
 お陰でムズカシそうな本を5冊も読み終えたけど、中身はあんまり覚えてない。


 そうして3日目の今日、特に用事もないくせに早く起きた俺は寝ぼけたまま台所に立つ。こう見えて結構料理は得意だと自負しているのだが、それを誰かに話したところで認められたことなど一度としてない。
何故?

 そんなわけで朝ごはんに食パンと味噌汁をモシャモシャ食べていたら携帯が鳴った。見ればメールが一通届いている。


「んー、お。」


 のそのそと携帯を開いてみれば、メールは同じ弓道部の渡辺からで、暇なら一緒に自主練しないかとのことだった。

 コイツも暇だったのか。可哀想な奴め。



「・・・・・・」



 ・・・心の隅で千秋かな、とか、ほんのちょっとだけ期待してしまった自分を盛大に罵りたくなったのはここだけの話。



 まあこんな雑念を振り払うためにも、自主練するというのはなかなかいい案かもしれない。

 OKの2文字を打ち込んで送信ボタンを押す。



 そうして再びご飯にありつこうと箸を持ち直したところで再びケータイが鳴った。みれば渡辺から時間と待ち合わせ場所を書いたメールが返ってきた。



 返信早過ぎ、暇人だな。










 ジーンズにTシャツというラフな格好で胴着を持って部屋を出る。
 まだみんな寝ているのか、廊下は結構静かで人通りも少ない。道場に続く渡り廊下の途中で渡辺が蹲っているのが見えた。


 何やってんだアイツ



「ナベー?どした」


 顔を覗き込むように見れば渡辺は鼻を押さえてこちらを向いた。目に少し涙が溜まっている。



「こけた、鼻打った、いてぇ」

「アホだ」



 コイツは割と男前なのに、ドジ。こういうのを玉に瑕っていうんだろうな。

 いつまでも蹲ってる渡辺を放置してさっさと更衣室に入る。ここ数日誰も利用していなかったせいか中は少し埃っぽくて、ジメッとしている。

 そろそろ掃除しなけりゃなぁ。


 とりあえず窓を全開にしたところで、復活した渡辺が入ってきた。


「うわ、あちぃー。さっさと着替えよーぜ」

「いつまでも蹲ってた奴に言われたくねー。」

「つーか、そろそろここ掃除しね?流石に汚れてきたしな」

「人の話し聞けよオイ」

「さ、練習練習〜。って、お前まだ着替えてねーのかよ。さっさと行くぞー」

「・・・」



 こいつは基本、人の話を聞かない。しかも超マイペースで超楽観主義者。ひたすらにポジティブ。

 ちょっとくらいマイナスに考えてもいいんだよって、いつか教えてやろうと思う。


 え、何?悪口だって?違うよ誉めてんだよこれでも。





 とりあえず、さっさと着替えて出ていってしまった渡辺の背中を的に、矢を打ってやろうかなと真剣に思った俺は断じて悪くない。

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