04.フォッグ
情けなくも俺は半泣きの状態で楓さんに連絡を入れた。
泣き虫と呼ばれていたあの頃より少しは成長したと思っていたのに、こんなことで泣くなんて、あんまり変わってないのかもしれない。
『そう・・・、千秋が。』
「うん。・・・あのさ、ほんとなの?俺たちが兄弟じゃないって」
『・・・残念だけど、本当だよ。黙っていて本当にごめんね。僕と大樹で時期を見て話そうって決めていたんだけれど』
経緯を話せば電話越しに悲しげな声が返ってきて、それがさらに俺の悲しみを増幅させた。
「楓さん、どうしよ俺・・・。そんなこと言われても、急に今までの生活とか、変えられないよ。」
『碧・・・』
「・・・俺はさ、別に本当の兄弟じゃなくても血が繋がってなくてもいいんだ、そんなこと気にしない・・・でも、千秋はそうじゃないみたい。俺、嫌われちゃったのかなー・・・」
あー、やばい。
なんかまた泣けてきた。畜生
ぐすぐす言い出した俺を察したらしい楓さんは優しげに名前を呼んでくれた。
『ねえ、碧。とりあえず、落ち着いて・・・ちょっ―――』
・・・・・・ちょ?
楓さん、語尾に“ちょ”なんて付けるキャラじゃないでしょ。
そんなしょうもないことをぼんやり考えていると楓さんより低い声が俺の耳に届いた。
『碧』
途端にサァッと顔から血の気が引いた、ような気がした。今、電話の向こうにいるのは不機嫌丸出しの大樹さんだった。
『てめぇ、何メソメソしてやがんだ情けねえ。男だろ、ああ?』
うわあああ怖い恐いコワイ
だから大樹さんじゃなくて楓さんに電話したのに、何でこの人が電話出ちゃってんの。
今の会話でお分かりいただけただろうか。楓さんが天使なら彼は腹黒ドS悪魔である。
結局小一時間罵られ貶されて、そろそろ本気で立ち直れなくなりそうになった頃、大樹さんは少し真面目な声で静かにこう言った。
『・・・とにかく、碧。今は、千秋に言われた通りにしとけ。』
「え、」
『お前らの間でそういう話になった以上、もうそれは決定事項。他人、とまではいかなくても、兄弟じゃなくなった今はあいつを1人の人間としてみろ。いいな。もう泣き言の電話はすんな。というか今日は絶対電話してくんなよ、俺ら今からナニするから。じゃあな』
「は、い・・・って、え、ちょっと!大樹さん?!」
電話越しに聞こえるのは、通話終了を知らせる虚しい機械音。
ああ今日あの2人デートだったんか。通りで大樹さんの機嫌が悪いわけだ。つーかナニって・・・。きっと楓さん明日は足腰立たないな。御愁傷様です。
ひたすらに誹謗中傷されたおかげか涙はひっこんだ。その代わり心にかなりの傷を追ったわけだけど。
じゃあまあ、とりあえず言われた通りにしてみようか。
なるようになるさ、ケセラセラさ。
開き直った俺は、あと残り2日の休日をいかに有意義に過ごすかということについて真剣に考えることにした。