メリークリスマス。


そう言うものの、特に何があるわけでもないんだ。



「っかー…!さみぃさみぃ…」



極限まで飾り付けられた道を一人で、人をかわしながら歩く。

レストランは満席。映画館も行列。

よく見れば、確かに今日はクリスマスだったんだな。


口で言ってもどうも実感がなかったけど、自分の周りがこうも賑やかだと自分まで頬が緩んでしまうもんなんだ。


一人歩いてる人まで、家族の分なんだろうか、ケーキの箱やプレゼントを大切そうに握っている。




「クリスマス…か」



やっぱり自分も政宗と飲みに行った方が良かったかもしれない。

でもこの寒い中戻るのも面倒だ。



ふ、とこの日に一人であることが寂しくなって喉の奥が鈍く痛み始める。

女じゃないんだから、そんなこと思わなくてもいいのに



とか悩んでるものの、歩く方向は相変わらず自分の家だ。




「あ」



たまたま視線を左に向けただけだったけど、調度それが最近気になってた御菓子屋なわけである。

別に洒落たわけでもない、逆にシンプルで可愛いちっちゃな店。

ガラス越しに見えるこれまた小さなショートケーキに目が行く。



(かわいい…な)


いちごのそりに小さなサンタが乗ってる。

気づけば店の中まで入って、財布を握ってる。


そして、財布とケーキを交互に見て出口へと足を運ぼうとするがまるで靴底に接着剤がべっとりひっついたかのように動いてくれない。


(誰と食べるんだよ)


甘党なら真田か?いや、あいつは武田のおっさんと一緒に過ごしてるだろう。


携帯を取り出してとりあえず片っ端から連絡帳をあさってみる。


すると指が一つの名前が映されたしたところで止まる。



【名前】



駄目だ、駄目だろう。


あいつも絶対用事があるはずだ、と熱くなる顔を周りの数少ない人に見られないように小さく横に振る。


だがさっきも言ったように俺も俺であるわけで、「名前どうせ付き合ってる人いないんだろ?」とか「何も恥じることないじゃないか」とかなんとか言って邪魔するんだ。



絶賛片想い中の俺にこの選択肢はきつい。なんなんだよ。ああこんな店入らなきゃよかった。



「お客様、大丈夫ですか?」



「え?あ、ああ。これ、一つ」



***



馬鹿。

馬鹿。

大馬鹿。



「買ったら余計悲しいってのに」


こたつの上で開けたケーキが場違いすぎて、そして俺の気持ちを嘲笑ってて、もっと悲しくなった。


机に突っ伏して、下唇噛みしめる。

情けないよ。


悔しくなって無意識に名前に電話をかけてた。



『どったの元親』


声を聞いただけで電話したことに後悔してただちに会話を切りそうになる。

耳が熱くなってくすぐったくなってこたつにいられなくなる程熱い。

何も言わない俺の名前を呼ばれると携帯を握りつぶしたくなる。



「……っばがっ…来い。寂じい。」


なんでこうも可愛くないことしか言えないんだ。まあ別に今更可愛くなったってちょっと微妙なんだがな。



『行くから泣くなって』


俺も寂しかったから調度良かったな、って言われて用事がなかったことに対しては嬉しかったが、

それも別に俺の事想ってくれてたわけじゃなくて、俺が誘ったからせっかくだし行こうかなぁ、ってなだけってことを分かっててまた喉が痛くなる

そりゃ当り前だ、名前は別に俺が恋しい訳じゃないし。
恋人じゃないんだから。(そうであったらどれだけ幸せなことか)



「早くしねぇとケーキ一人で食う」



『ちょっと我慢してくれよ』



全力疾走で元親のとこ行くから、ってそんな大したことでもないことでさえ嬉しく思える俺は自分が男であることが憎い。



俺のプレゼントがいつまでたってもないよ

(悔しいからヤドリギの小枝でも吊るしてやる)


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ちかちゃん片想いしすぎ。
ちかちゃん報われなさすぎ。


20111225


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