『ほんと、賭けにのらなくて良かった』 見事貸し切りとなった東京タワーの屋上から模型のようなビルを不思議そうに眺めながらつぶやく 「のってたら2週間俺の犬だもんなぁ?」 暇そうにパソコンをカタカタと扱う妖一が悪趣味に笑う ほんと勘弁、と俺も一応自分のパソコンを立ち上げて床に寝ころぶ 自分のパソコン、といっても何もないけど。 妖一のように世界中の誰かさんの情報が入ってるわけでもなく、プライベートなものも入ってるわけでもない。 お気に入り欄は日本地図くらい。 後はサイクリング中に撮った写真などなど パソコンと向き合うときってほとんどサイクリング行く前か、もう俺死んでないかなって思うくらい暇な時でしかない。 と思うと、一応ここにきて俺は暇はしてないんだね、と改めて思う。 「妖ちゃんさ」 「忙しいんから馬鹿な事言ってっとここから突き落とすぞ」 「えげつなーい。じゃあ言わない」 チラ、と彼に向けた視線もパソコンへと戻す ………自分の写真も見るの飽きた。 大したこともせず、パソコンを閉じてタワーのてっぺんのここから見渡せる限りの景色を見る。 ここから見る車やトラックがあんなに小さいなら、人は米粒にも及ばない。 風が吹いたら吹き飛ばされそうな、そんな人たち。 虎や熊ならまだしも、人間には大した牙も、毛皮も、爪もない。 俺たちには、弱肉強食のような単純な世界の代わりに、もっと複雑な世界がある。 そんなことを考えてると雲がもうあんなところまで行った。 「………なんだ、言いたくねぇのかよ」 「突き落とされたくないので」 「ふーん」 誰かがテストを合格する気配もないここは、貸し切りで俺、妖一、栗田とまもりちゃんだけなため、予想以上に静かで、涼しい。 時間は過ぎても、俺の頭の中は真っ白で何も考えてない。 考える必要がない。 考えることもない。 「聞きたい?」 返事は帰ってこないけど、それは多分「はい」ってことだろう。 まぁ違うかもしれないけど。知らないけど。 prevnext |