進って人が出されてからは一点も入れられない

選手交代の時に見たが、まさかあの時にらめっこした仔だったとは

そして、前半が終わるまではまもりちゃんがうんともすんとも言わない




「何ボーッとしてんだ…」




『……うーん。別にー』




前半が終わっても俺はグラウンドを見たまま。

考えてるわけでもない、何を思ってるわけでもない

ただ、無を見てるだけ




「で、どうだ」




『ん?ああ、うん。速いね、シンっての』




「あの糞チビと比べたら」




『ははは、そんなの経験の差がありすぎると思うなぁ』




ルールなんてわからないけど、さっき瀬那君はボールの持ち方すら解っていなかったみたいだし





『俺、疲れた』



「ケケケ、俺に嘘吐こうなんざ100年はえーんだよ」



『バレたかー。』



肉体的な疲労じゃなければ、俺の表情はほとんど変わらないと聞いたけど、そのせいかな



「ったく…役に立たねぇ秘書だな。どうせ今日は早帰りだ、帰りにみっちり叩き込んでやる」



横から蹴られ、ベンチから蹴り落とされ、後半戦




『もしかして気、遣ってる?』





「んのことだよ」




明らかに解ってそうな顔

俺だって伊達にこの世を生きてない




『ま、ありがとね』




飛行機雲が青に消されるのを見ながら笑った







***







『派手にやられてるねー』





「5…50点差だもん…」





「帰るぞ」





『そう?』





急に首根っこを掴まれたと思うとボストンバッグを持った妖一

良く見ればもう4分くらいしかないし、ここまで追い詰められるとやる意味がなさすぎる


一歩先を歩いてる妖一に今頃ベンチから立ち上がる俺

そこに瀬那君が何か言ったらしく、少しもめてるらしい




「今言っただろ。最後まで頑張るだとか―「抜けるかも…」




まさかあんな瀬那君からこんな言葉を聞くとは

怖いとかいいつつも、最終的には楽しいんだな…




「いや…その…抜けそう、かもしれないんです。 もう少し…もう少しで…」




「勝ちてぇのか?進に」



いつも、試合中のときくらいにしか見せないゲームフェイス

それにどう対応すればいいかわからない瀬那君は




「え! いや、その…そんな大それたのじゃなくて…ただもう少しで抜けそうかな〜なんて…」




さっきまでの真剣さが一瞬に氷から生温い水たまりに溶けて、いつものようにうじうじし始めた

もちろん妖一はイラつくワケで



「ゴチャゴチャうるせーこの糞チビ!!」


隣で瀬那君に向かって乱発を見れば、本当はちょっと嬉しそうってことに気づく

―のは俺だけだろうか




「おい糞秘書、作戦会議だ。 終わるまで帰んねーぞ」




『ほんと扱いにくい仔だよね妖ちゃんは』



わかってるよと手を振り、ベンチに戻る



『アイシールド君』




「え?あ、(あ、アイシールドって僕か)はい!」



グラウンド上とは違う、テッテッテとまるで子供のような足取りで瀬那君が来る




『頑張ってこい!』



両手で彼のヘルメットを挟み、何度か叩く




「は、はい!」



監督に向けるような言葉を放ってはグラウンドに戻る

さっきまでは一人で先に帰ろうかなと思ってたけど


あんなに楽しそうにしてもらっちゃ、見たくもなる

あー困った。これじゃ一生このままかも。

苦笑いしてベンチからうちのチームの負けっぷりを楽しんだ






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