ちくわ様


 女の子関係で今までに修羅場が無かった訳ではないけれど、実際大したものじゃない。自意識過剰と自意識過剰が勝手にぶつかり合っただけ。
 だけど今回はどうだろう。正直オレ自身お手上げ状態だ。だってこんなの初めてで対処法が分からない。
 オレを真ん中に挟んで右手側に海常のセンパイら、左手側にキセキのみんなが――何故かオレを取り合っている。
「元々涼太は僕のものだ。返して貰おうか」
「ふざけんな。黄瀬は今海常の生徒だ」
 笠松センパイの前でも赤司っちは相変わらずの赤司様だ。
「黄瀬君は特にボクに懐いています。きっと凄く寂しがってます。だから此方に渡してください」
「残念だが既に黄瀬はウチの笠松にかなり御執心だぜ? 引き離せるわけがない」
 黒子っちの言葉は正直嬉しかったけれど森山センパイの言葉も実の所強ち間違いではない。だから否定も肯定も出来ない。
「憧れも何も無いむさ苦しいチームよか憧れも尊敬もあるこっちの方が黄瀬は一段と輝くんだよ。いーからさっさと渡せ」
「困ったな。黄瀬は俺たちを頼りにしてくれているから、そんな気持ちを踏み躙るわけにはいかないな」
 青峰っちは相変わらずの横暴っぷり。まああの人からそれを取ったらキレイな青峰っちが残っちゃうから気持ち悪いことこの上ない。小堀センパイは言葉や語調こそ柔らかいけれど目が、怖い。あんな人初めて見た。
「全く。こんな所に居ては黄瀬は宝の持ち腐れなのだよ。此方に居る方が黄瀬の長所を存分に引き出せる」
「お前(ら)みたいな下心(ろ)丸(る)出しの変態集団にオ(レ)(ら)の黄瀬を渡せ(る)わけねぇーだ(ろ)っ!」
 緑間っちがここまで言ってくれるなんて思わなかった。だって今までずっと素っ気なかったし。所謂ギャップと言うやつだろうか。少し心が傾く。対して早川センパイはラ行が言えてないから緑間っちが下心丸出しみたいになっている。もしかしなくともダメージ食らっているのではないだろうか。
「あ、このお菓子なかなかイケる」
 紫原っちはもうちょっと輪に入ろう!
 きっと此処がどこかの体育館ならばバスケで勝負ってことになっていたんだろうけど。そうもいかないのは今、オレ達が居る場所こそがWCの会場だからだ。
 開会式が終わって赤司っちにキセキが呼び出されてセンパイ達が迎えに来てくれた。そしたら気付けばこうなった。 
 黒子っちの付き添いで来た人や突然現れた火神っちにヘルプを目で訴えても「ごめん無理」とジェスチャーで返ってきた。諦めないで!
 そして今のオレ達は矢張り目立つらしい。そりゃそうだ。長身が一ヶ所に固まって言い争っているんだから。注目されるのは好きだけど、これは只の悪目立ち以外無い。
 付き添いの人は矢張り付き添いで来たのだから黒子っちと共に戻らなければならない義務を背負っているのだろう。帰ればいいものを律儀に待っている。でもちょっと泣きそうだし帰りたそうだ。何か、巻き込んじゃってごめんね。
 火神っちはどうやら付き添いではないらしい。俺にジェスチャーで謝った後、踵を返そうとした。しかしそれが未遂に終わったのは付き添いの人が腕にしがみつき首を横に振っていたからだ。そりゃこの空気で一人は嫌だろう。正直、オレも嫌だ。っていうかこの状況が嫌だ。
 火神っちが「離せ降旗!」と言っていたから付き添いの人は降旗クンらしい。
 そんなこんなで言い争いを黙って待っていると笠松センパイが声を荒げた。
「大体なぁっ! お前らもう高校生だぞ!? いい加減中二病ヤメロ!」
「雛はいつか巣立つものだぜ?」
 笠松センパイも森山センパイもごもっともなんだけれども、オレは雛じゃないっス! と反論すべきだろうか。
「涼太!」
「はいっス!」
 突然話を振られてオレの体は跳ね上がった。一気に押し寄せる緊張感に心臓はバクバクだ。
「お前、結局どっちがいーんだよ!」
 ズイッ、と嘗てのキャプテンと今のキャプテンが同時に上目で迫ってくる。双方オレよりも低いからそうなるのは必然なのだけれど、女の子のような上目遣いみたく可愛いものじゃない。
 究極の選択肢を突き付けられて迫るのだ。ド迫力以外何があるというのだろう。正直、怖い。
「ど、どっち……って」
「涼太、お前を手放したくない」
「黄瀬、オレ達にはお前が必要だ」
 一体どこで覚えてきたのだろうかそんな殺し文句。
「あ、あ……あのっ、あの……」
 も、ホント……勘弁してっ!
 そう、口から絞り出そうとした時だ。
「黒子ー。カントクが苛ついてんぞー」
 そんな火神っちの言葉が引き金になったのかみんなの携帯が一斉に鳴り出す。
「チッ、おいさつき邪魔すんな! うっせぇ! 切るぞ!」
「高尾、何なのだよ。何? ……そうか」
「はい、黒子で……すみません、監督。はい。はい」
「もしもーし。あ、室ちん? んー、ちょっと待ってー。赤ちーん、オレ、呼ばれたから戻ってもいいー?」
「時間か」
 忌々しげに吐き捨てる赤司っちは携帯で時間を確認するなりオレからスッと離れた。
 こうして、試合開始時間が迫ってくれたお陰でオレはこの息苦しさから解放されることとなる。
 去り際、紫原っちに呼び止められて振り返ると、
「あげる」
 そう言ってまいう棒を襟首に差して去っていく。
 まさかそれが布石であったなど、この時のオレは知りもしなかった。 




【修羅場/海常には渡さないぜって敵視し合うキセキ】
結局答えは保留です。きっと黄瀬はどっちも大事だし大好きなので直ぐには出せないでしょう。ただ、紫原の行動によって海常が後手に回ったようです。
リクエストありがとうございました。



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -