椿様


 人は彼を犬のようだと言う。明るくて沢山の笑顔と愛嬌を振り撒いて、まるで大型犬であると言う。けれどもボクは彼を一度も犬のようだと思った事はない。
 人は彼を太陽が似合うと言う。明るくて沢山の笑顔と愛嬌を振り撒いて、まるで辺り一面を照らす太陽だと言う。けれどもボクは彼を一度も太陽のようだと思った事はない。
 人は彼を向日葵に囲まれているのが似合うと言う。明るくて沢山の笑顔と愛嬌を振り撒いて、まるで向日葵であると言う。けれどもボクは彼を一度も向日葵のようだと思った事はない。
「黒子っち!」
 彼は日の暮れた校門でボクを呼ぶ。人が向日葵のようだと形容した髪をきらきらと反射させて太陽のようだと形容した笑顔を貼り付けて犬のようだと形容した態度でボクを呼ぶ。
 弾んだ声。明るい声。端から見れば上機嫌な彼。
 けれども皆は知らない。
「また来てんのかよ黄瀬」
「ぶーぅ。別にいーじゃないスかぁ。ちゃんと校門で我慢してんスよ? 本当は体育館まで押し掛けたいくらいっス」
「ヤメロ邪魔だ」
「火神っちヒドいっス!」
 あんなに火神君に突っかかる黄瀬君が、本当はキャンキャン鳴いているのでもワンワン吠えているのでもない事を。
「黒子も随分と面倒な犬に懐かれちまったな」
 ボクの隣で苦笑する主将も、その周りで同じく苦笑する監督も他の先輩方も、知らない。気付いていない。
「責任を持って連れ帰ります」
「おーおー毎日ご苦労さん」
「火神君、あまり黄瀬君を虐めないでください」
「はあっ?」
「行きますよ、黄瀬君」
「じゃねっ、火神っち!」
 皆と離れて二人きりの道を歩く。近くの公園に寄りたいと袖を引っ張る黄瀬君にボクはすんなりと頷く。誰もいない、小さな公園だ。けれども緑が多いから、まだ明るいはずの西の空はある程度遮られて影は伸びなかった。
 ねぇ。彼が口を開いた。ああほら、やっぱり。
「何ですか?」
「どうして今日は遅かったんスか?」
「いつも通りですけど」
「昨日よりも二分半遅かったっス」
「それは仕方ありません」
「どうして? 俺はちゃんと昨日と同じ時間に終わって同じ時間に電車に乗って同じ時間に校門で待ってたっス! なのに何で黒子っちは仕方が無いんスか?」
 こうなってしまった彼はもうどうしようもない。
「ボクは黄瀬君と違って我が儘が通る人間ではありません。だから、毎日時間にズレが生じてしまう事に関しては、黄瀬君には申し訳ないと思っています」
 黄瀬君の鼈甲色をした瞳が夜の帳に紛れて更に重さを増す。光は、どこだろう。
「誰と何をしてたんスか? 火神っちっスか? ルーキーコンビで同じクラスで仲良いっスもんね。それとも監督サンっスか? 可愛いしバスケ部唯一の女子だしバスケにも理解あるんスもんね。それとも」
「黄瀬君」
「それとも四番サンの方っスか? 主将だし頼りになるし試合の時何かクラッチシュータ」
「黄瀬君!」
 柄にも無く少し声を張り上げると、黄瀬君の瞳は大きく見開かれた。その綺麗な色はまだ大きくなるんですね、何て頭の隅っこで考えていた事が言葉になることはない。
「ど……して、怒るんスか? オレ、何かしたっスか? オレ……」
「すみません」
「何、で謝るん、スか? やっぱり、遅れたのは本当は誰かとッ」
「ボクは黄瀬君だけですよ。ボクには、黄瀬君だけです」
 瞳が揺らぐ。暗い色を落としながらゆらりゆらりとボクを映す。
 こうなってしまった彼はもうどうしようもない。けれどもそんな彼を可愛いと、手放せないボクはもっとどうしようもない。
「黒子っち」
「はい」
「くろこっち」
「はい」
「ねぇ、くろこっち」
「何ですか、黄瀬君」
 人は彼を犬のようだと言う。明るくて沢山の笑顔と愛嬌を振り撒いて、まるで大型犬であると言う。けれどもボクは彼を一度も犬のようだと思った事はない。
 人は彼を太陽が似合うと言う。明るくて沢山の笑顔と愛嬌を振り撒いて、まるで辺り一面を照らす太陽だと言う。けれどもボクは彼を一度も太陽のようだと思った事はない。
 人は彼を向日葵に囲まれているのが似合うと言う。明るくて沢山の笑顔と愛嬌を振り撒いて、まるで向日葵であると言う。けれどもボクは彼を一度も向日葵のようだと思った事はない。
「だぁいすき」
 ほら。どこをどう見たら犬だと、太陽だと、向日葵だと言えるのでしょう。
 こんなにも、野良猫のように微かな光を映し出してボクを見るのに。
 こんなにも、闇夜を背負って全てを飲み込もうとしているのに。
 こんなにも、鴉に囲まれているのが似合う人なのに。
 黄瀬君の本当の時間は、今からですよ。
 さあ、ボクにだけ鳴いてください。ニャアニャアとでもカァカァとでも、存分になけばいい。 




【黄瀬がヤンデレ、嫉妬、高校生のふたり】
今思えば私、ヤンデレってそんなに書いたことないというか書いたことあったっけ?くらいに本当にヤンデレ経験が無いです。すみません。何かヤンデレ履き違えてたらすみません!
ヤンデレって言ったらどうもスクイズが出て来てこう、ね!妊娠を装ったりだとかじゃあそれを確かめてあげるとかでバラバラにしてやっぱり妊娠してなかったぁって言ったりだとかそれをボストンバッグに詰めたりだとかそんなイメージが……。偏り過ぎですかね!?
この黄瀬君は黒子が大好き過ぎるんです。それを分かっているから黒子も手放せないんですけど、何か作中の黒子が黒様と化してる気がしてなりません。
もっとヤンデレ勉強します!

>お祝いのお言葉ありがとうございます。
そのように言っていただけて嬉しい反面照れ恥ずかしいです(ゴロンゴロン)
いつも書きたいように書いているので中身のない内容ばかりでお恥ずかしいです><

そうでしたか!いやでも前回のリク企画を存じ上げて下さっているだけでも俺は僕は私は!いえいえ、ただ私がやりたかっただけの陳腐な自己満企画ですのでもうちょっと気の利いた物が考えつけたら良かったのですが……(笑)
リクエストありがとうございました!



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