瑠明様


 ピロリッピロリッピロリッピロリッ。
 ポテトが揚がった事を知らせる機械音がざわめく店内に響く。それを遠くに聞きながら、俺はぐるりと周りに視線を動かした。
 ソファー席の一番奥に座る俺の前には相棒の黒子がバニラシェイクを無表情で啜っている。もう少し美味しそうに飲めないのかと思ったが、いつだったか黄瀬と一緒に行った時「相変わらず黒子っちはシェイクだけは美味しそうに飲むんスねー」とニコニコしながら言っていたのを思い出す。これで美味しそうに飲んでいるのか。じゃあ、イベリコ豚以下略はシェイクよりも余程美味かったのだろう。
 そしてその黒子の左手には元相棒である青峰がふてぶてしく座っている。「テツおめー、相変わらずだな。好きならもっと美味そうに飲めよ」と俺が思った事をまるで代弁するかのように言っていた。どうやらキセキ全員が分かる訳では無いらしい。
 そんな青峰の隣には座ってもデカい紫原が居る。三角チョコパイの逆襲に遭っている最中だ。噛んだ瞬間にあらぬ場所からチョコが勢い良く溢れ出す、アレだ。
 その紫原と対面して座るのはムスッとした表情の緑間だ。不機嫌になるくらいなら来なきゃいいのに。しかし赤司の呼び掛けには逆らえないのだろう。
 彼らキセキの世代をわざわざ東京のマジバに呼び出した張本人である赤司は紫原と緑間の間、所謂お誕生日席――日本に来て初めて席に名前が有ることを知った――に鎮座している。アイツの眼光は鋭く俺を睨む。
「僕は彼を呼んだ覚えは無いが?」
 赤司が口元に笑みを湛えながら――しかし目は笑っていない――口を開く。
「メールにゃキセキ集合、だろ?」
「マジ空気読めって感じだしー」
「全く、迷惑な奴なのだよ」
「あ、俺が無理矢理連れて来たんス!」
 いつか来るだろうなと思っていた口撃を俺の右隣――つまり俺と緑間の間――に居る或意味誰よりも光に近い黄瀬が俺の腕に自分のそれを絡めてフォローしてきた。しかしお前の発言はフォローしてても行動は逆効果だ。頼む。アイツらの鋭い目つきに気付いてくれ!
「みんな居た方が楽しいし、それに火神っちだってそんなに俺らとソウショク無いじゃないスか」
「全く、涼太には困ったね。今日だけだ」
「あーまぁ、黄瀬がそう言うなら」
「黄瀬ちんが誘ったんなら」
「まあ、仕方がないのだよ。後、‘ソウショク’ではなく“遜色”なのだよ」
「良かったですね、黄瀬君」
「はいっス! みんな分かってくれたっスよ火神っち!」
「お前ら何か黄瀬に甘過ぎねぇ!?」
 分かったからそんな心底嬉しそうにキラキラした顔で笑いかけるな。四面楚歌だけはごめんだ。
「つーか黄瀬」
「なんスか? 火神っち」
「マジバに来てサラダと野菜ジュースだけ頼む奴なんて初めて見たぞ」
「マジ? 俺火神っちのハジメテ貰っちゃった?」
「アホか!」
 何がそんなに嬉しいのか、無防備過ぎる笑顔は目に毒だ。後、火に油だ。
「俺、サラダは絶対食べるようにしてるんスよ。青峰っちはもっと野菜食べた方がいいっスよ!」
「はぁ? 草ばっか食ってたって大したエネルギーにも血肉にもなんねーよ」
「栄養バランスは大事っスよ! ね! 緑間っち」
「そうだな。青峰の場合、ただでさえ血気盛んなのだ。寧ろ多少は肉を控えた方が良いのだよ」
「お前はオカンか!」
 ぶはっ。隣で黄瀬が吹き出した。
 心外だとばかりに緑間は目くじらを立てているが依然として黄瀬は笑ったままだし、青峰は飄々としている。
「紫原君と赤司君は寮ですから、食事に関しては大して問題にはならないですね」
 ふと黒子がストローから口を離し、話題を振る。
 けれどもその内容に紫原は眉根を寄せて「んーでもー」と渋っていた。
「食器が小さいんだよねー」
 食べにくい。
 そう言う顔は顰めたままだ。
「まあ、紫原君の体型に合う食器と言うのは先ずそうないでしょうね」
「俺でも合った食器を探すのは苦労したのだよ」
「俺ぁ食えりゃー別にいーや」
 だろうな、と恐らくその場の全員が思っただろう。
「紫原くらいになると、普通の箸よか菜箸の方が意外と食いやすいかもな。茶碗もラーメン丼くらいのでさ」
「……それ、いーねー。戻ったら言ってみよー。眉毛分かれてるのに良いこと言うじゃん。眉毛分かれてるのに」
「何でお前二回言った」
 感動したように瞳をキラキラと輝かせて言う言葉は、明らか喧嘩売ってるようにしか思えねぇ。しかし俺はそれを買うよりも隣の発言に肝を潰す事になる。
「黒子っちと赤司っちはそんな心配要らないっスね!」
 バカかお前。視認出来る地雷をわざわざ踏むなよ。良かったっスね! とか上機嫌に言ってんなよ。
 ピク、と目の前の影と視界の端にいる赤が反応する。青峰も緑間も紫原も、あーあ、と呆れるよりは我関せずと言った態度だ。
 この場合――先程の事もあるし――俺が助け舟を出すか? 否、けどこれは明らかに空気を読めてないコイツが悪い。寧ろフォローの言葉が見つからねえ!
 何となく、こういうのはバカな俺よりも、緑間みたいな頭の良い奴の方がきっと適切な言葉を紡ぐのだろう。けれどもその唯一助け舟を出せる奴はシェイクと同じ容器に入っているお汁粉を啜っているだけだ。いつの間にこのチェーン店はそんな売れない事など火を見るよりも明らかな物をメニューに載せたのだろう。まるで緑間の為に用意されたみたいだ。しかしストローで飲めるものなのかも疑問だ。
 そこまで考えて、あれ俺は何について考えていたんだっけと新たな疑問が浮上した。すぐには思い出せない辺り、大した事ではないのだろう。そう、思ったのがいけなかったのかも知れない。
 この後、黄瀬と青峰がトイレに席を立つと、黒子と赤司から「席を変われ」と物凄く低い声で言われたのでつい、頷いてしまった。
「ただいまーっス……アレ? 席変わったんスか?」
「まあね。久しぶりに涼太と沢山話したかったからね」
「そっスかー」
 俺が居た場所に黄瀬、黄瀬が居た場所に黒子、黒子が居た場所に赤司が居る。何故、黒子が動く必要があるのかと声を潜めて問えば、緑間曰わく「それが一番効果があるのだよ」だそうだ。
「黄瀬ちんは赤ちんから目を逸らせないしー。んーと、蛇に睨まれた蛙?」
「テツからは何を言うでも無く無言のプレッシャーがのしかかるからな」
「えげつねー」
 しかし何も知らないこの純真な笑顔が後もう少しで崩れるのかと思うと思わず唾液を嚥下した。
 ああ、どちらにしろ俺は端っから黄瀬を助けようなんて考えは無かったのかもしれない。
 言葉になってない声を紡ぐだけで今にも泣き出してしまいそうなキレイな顔を、俺はこのお誕生日席と言う特別なポジションからバーガーのオカズとして堪能する事にした。 




【ほのぼのでギャグ みんなでマジバでとにかく駄弁りまくる】
本当に喋っているだけで何もない!内容が!無い!ですっ!
後、ほのぼのさがフェードアウトしてますね。ギャグ要素なんてフルタイムでミスディレクションしてますね。あれどうしてこうなった。すみません。
後何か最初の方とかすっごい火(→)←黄臭がしちゃってますけどそこはもうただの過剰なスキンシップと捉えていただければと思います。

>お祝いのお言葉ありがとうございます!まさかこんな桁まで行くとは思いもしませんでした。
仲良しキセキ……に、なってますか、ね?喧嘩はしてないのできっと、大丈夫。(喧嘩さえしなければしかし場合によっては喧嘩しても仲良しと言う安直な思考の下に作られています。)
火神も一緒にキセキとマジバに行ったらもうそりゃあ目立つでしょうね!デカくてバカみたいにバーガー頼む人とデカくてやけに黒くて人相が悪い人とデカくて変なもの持ってお汁粉頼む人とデカくて本当にデカくてスイーツ頼む人とデカくてでもよく見たらモデルってこれ何の集まりですかと。
バイトのレジの子涙目ですよ。しかも作り置きのバーガーが足りない足りない(笑)
お気遣いありがとうございます^^
リクエストありがとうございました!



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