りゃん様


「今日は涼太が居なかったお陰で滞りなく部活を終えることが出来たよ」
「久々に静かで過ごしやすい部活だったのだよ」
「俺もこうしていつもより早く帰れたしな」
「部活の間、黄瀬ちんのロッカーお菓子置きに出来たしー」
「教育係がこんな形でお休みを頂けるとは思いませんでした。お陰様で自分の練習に集中出来ました」
「もーっ! みんなして何々スかーっ! ってか何しに来……ッ!」
 言葉の途中で咽せた。満足に文句の一つも言えない俺は絶賛発熱で寝込み中だ。
 原因は疲労から来るもので一日安静で良くなるはずなのだが、現実、そうもいかない。
 両親共働きの為家には一人だ。安静なんて簡単なのにそれが未遂に終わっているのは勿論、彼等のせいである。
「あー……何かもう余計上がった気がするっス」
「鍛え方が足りねぇんじゃねーの?」
「黄瀬、さっさと脱ぐのだよ」
「真太郎、大胆だね」
「汗を拭く為なのだよ!」
「分かっているさ」
 緑間っちの言葉にそう言えばと思った。彼等が来るまでずっと寝ていた俺のスウェットは汗を吸っている。気付かなかった。汗を掻いた服が不快であることくらい毎日の部活で嫌と言うほど体感しているのに。
「んー」
「ったく、しょうがねぇな」
 仰向けから起き上がるのは案外しんどい。だから寝返りを打って横向きか俯せの状態から体を起こそうとしていたのだ。しかしゴロンと打った時点で頭がボーっとする。
 そこでフリーズした俺に痺れを切らしたのか青峰っちがベッドに乗り上げ体を起こしてくれた。まるで介護されている気分だ。
「着替えは確か此処ですよね?」
「あ、そーっス」
「黒ちん何で知ってんのー?」
「以前、泊まった事があるからですよ」
「へー……え?」
「は?」
「何……だと?」
「テツヤ、その話詳しく」
「今は黄瀬君の着替えが先です」
 そう言って黒子っちが部屋から出て行く。どうしたんだろう、何て思いながらもそれ以上考える事は難しく直ぐに放棄した。
 青峰っちに支えられながらもそもそと服を脱ぐ。
 熱に浮かされ火照った体はじっとりと汗ばんでいる。脱いでも体内に籠もった熱が逃げることは無かった。
 脱いで漸く、あー気持ち悪い、と気付く。
「思った以上だな」
「目に毒なのだよ」
「黄瀬ちんエローい」
「俺、我慢出来そうにねーわ」
「そこは我慢してください」
 黒子っちの出現にみんなが驚く。そんな彼等を見るのが珍しくてふふっと笑ってしまった。
「皆、涼太に見とれていたからな」
「へぁ?」
「お前はそれ以上アクションを起こすな」
 そんな横暴な、と緑間っちに言ってやりたかったが存外優しく体を拭いてくれるのでぐっと喉の奥に止まらせた。
 そんなん反則じゃないスか。
 そんな緑間っちに支えられながら大人しく成されるがままになる。青峰っちは俺を緑間っちに預けるとベッドシーツを替えてくれていた。
 こんな青峰っち見たこと無い。
「あ、そうそう〜。黄瀬ちんに飲み物買ってきたよー」
 ガサガサとレジ袋を漁る紫っちだが、その度にお菓子がポロリと落ちる。バジル明太子カツカレー味のまいう棒には最早ツッコむ気力さえない。
 はい、と渡されたのは《フレッシュレインボー〜初夏の味〜》とプリントされたラベルを纏うペットボトルだった。ああ、矢張りツッコまなければいけないのだろうか。
「敦、それはお前のだろ。涼太のはこっちだ」
「赤司っち……」
 今度はちゃんとした清涼飲料水だった。流石赤司っち。
「キツいなら飲ませてやろう。口移しで」
 サラッと真顔で冗談を言う。流石赤司っち。
「やめてください。皆狙っているんですよ。不公平です」
「あれ、黒子っちが冗談言うなんて珍しいっスね」
「当たり前じゃないですか。冗談なんかじゃありませんから」
「へぁ?」
「だからアクションを取るなと言っているのだよ!」
 理不尽だ。
 でも口調とは裏腹に尚も優しい手付きに心地良さを感じる。
 そうして水分補給も着替えも済ませた俺は再びベッドに横たわる。いつもと違うのは視界いっぱいにキセキのみんなが居ることだ。
「へへーっ」
 へにゃりと笑う。表情筋を上手くコントロール出来ないのはきっと熱のせいだけじゃない。
「俺、今超幸せっス」
 思った事を口にしただけなのに胸の辺りがじわりと暖かくなる。幸せは直ぐ近くにあると言うけれど、こんなに近くだとは思わなかった。手を伸ばせば各々が指を絡めてくれる。
 親指は赤司っち。
 人差し指は緑間っち。
 中指は青峰っち。
 薬指は黒子っち。
 小指は紫っち。
 そこからじわりじわりと幸せが体を伝う。
「涼太。そろそろ眠ると良い」
「疲れただろう」
「明日までに治せよ」
「皆、寂しいんですよ」
「黄瀬ちん、おやすみ〜」
 鼓膜を震わす心地良い声に目を閉じる。矢張り疲労が溜まっていたのか直ぐに眠りの淵へと誘われた。
 直前、俺は何を言ったのだったか。
 彼等の声は、最後に何を言ったのだったか。
 そこの記憶は有耶無耶ではっきりと思い出せないけれど、何だかんだで不安だった俺を安心させるには充分だったのは分かる。
――俺って、愛されてんスね。
――何を今更。



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