むー様


 体育館の扉を開けると、そこは海常だったかそれとも帝光だったかと俺の頭は疑問を残したままフリーズした。
「え……、あ、なん……何で?」
 おかしいおかしいおかしい。こんなの絶対におかしい。だけど、嬉しい。
「おっせーぞ黄瀬ェ」
「涼太、待ってたよ」
「人事を尽くさないからこういう事になるのだよ」
「黄瀬ちん久し振りー」
「課題はちゃんとやりましょうね、黄瀬君」
 目の前には信じ難い光景が広がっていた。
「何で、居るんスか?」
 みんなだって部活があるだろう。赤司っちや紫っちに関していえば、神奈川に居ること事態おかしい。
 けれどもそんな事は微塵も感じさせないくらい彼らはここに馴染んでいる。それは多分、場所が体育館だからだろうけど。
「涼太が心配で来たんだ」
「黄瀬ちんが虐められてないか、俺毎日心配してるしー」
「この間の練習試合で黄瀬君がよく先輩にシバかれていると報告したらこうなりました」
「ちょっとこっち来い、黄瀬!」
「あ、はいっス!」
 笠松センパイの声に機敏に反応出来るくらいには俺もこの体育館やチームに馴染んできたと思う。
 駆け寄れば後頭部を掴まれ頭を低くされる。気付けば他のセンパイ達も同じように低くしていて、端から見れば円陣を組んでいるようにも思える。
「どういう事だあれは。何でキセキが勢揃いすんだよ!」
「そんな事言われても……」
「前もって連絡は無かったのか?」
「あったらちゃんとセンパイ達にも言うっスよ」
「でもお前連(れ)絡(ら)は取ってんだ(ろ)?」
「見落としの可能性は?」
「小堀センパイまで疑うんスかぁ? 確かに取ってるんスけど、碌に返ってきた例なんてないっスよ」
 そう言って俺はつい最近のメール履歴を話した。
 黒子っちに送ったメールはシカトされたこと。緑間っちに《今日は蟹座一位っスね!》と送ったら《死ね》だけだったこと。青峰っちからは《やきそぱんカッタカタ》――恐らく‘焼きそばパン買ってきて’と寝ぼけて打った物と思われる――と謎の文章が送られてきたこと。紫っちからは神奈川限定のまいう棒を送れ――しかも郵送料は俺が負担――との催促メールだったこと。赤司っちからは《今度撮影で京都行くんスよ!》と報告したら《そうか》の三文字だけだったこと。
 ここ一週間のキセキのメンバーとの遣り取りの履歴はそんな所だ。
「お前、嫌われてたのか?」
「笠松センパイひどいっス!」
「確かにその履歴には同情するな」
「森山センパイっ……!」
「じゃあ何でアイツ(ら)はウチに来たんですか?」
 早川センパイの言葉に、俺達は黙って首を傾げた。
「涼太!」
「あ、今行くっス! スマセンッ、赤司っちに呼ばれたんでちょっと行ってくるっス」
 センパイ達の輪の中から抜け出し、フリースローのライン辺りに固まる五人の元チームメートの所へと急ぐ。キュッキュッと鳴る高音は、今までと同じものなのに何だかとても懐かしく感じる。
「どうしたんスか?」
「黄瀬ちん、また虐められたのー?」
「へっ? 誰に?」
「矢張り涼太を一人にするべきでは無かったかな」
「え、や、赤司っち?」
 何故か頭をひたすら撫で回す紫っちだけど、その手に段々力が入るものだから禿げちゃわないか心配になった。
 赤司っちは赤司っちで触診するように体のあちこちを調べている。一体どうしてこうなったんだろう。
「黄瀬ェ、今なら相手してやってもいいぜ?」
「え! 青峰っち本当っスか!?」
 思わぬ申し出につい、食い付いてしまった。頭の隅では今が部活中だって分かってはいるけれど。でも嬉しいものは嬉しい。
「相変わらず都合の良い男なのだよ」
「だったら真面目に練習に行けば良いじゃないですか」
「ぁあ?」
 二人して呆れたように溜め息を吐くのが同時なのだから思わず笑ってしまった。
 だって、お互いに相性が悪いだの苦手だの言ってる割には息もぴったりだ。
「おい、黄瀬!」
「はいっス! 笠松センパイに呼ばれたから行くっスね!」
 そう言って俺は対角線上に居る先程の輪の中へと戻って行った。

 それから何往復したかは分からないけれど、部活が終わる頃には既に疲弊していてセンパイや青峰っち達から「情けない」だの「鍛え方が足りない」だの言われたが《あんたらのせいだ》何て何故か言えなかった。
 だって、赤司っちも青峰っちも緑間っちも紫っちも黒子っちも笠松センパイも森山センパイも小堀センパイも早川センパイも他の海常のみんなも笑ってくれてたから。それを見たら、もうどうでもいいやって思えた。
 俺の《好きな人》が隣で笑ってくれるから。 




【海常にキセキが来る】
すみません。黄瀬視点で書いた上に居残りさせちゃったので《来る》と言うよりも《居た》になってしまいましたね;
海常とキセキの間をひたすら行ったり来たりする黄瀬をお互い楽しんでいるんだろうなと思います。一人シャトルランですね。
最後の《好きな人》については妄想にお任せします。
リクエストありがとうございました。




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