匿名様


 部活帰りにコンビニに寄るか、マジバに寄るか、帰るか。これらはいつも練習後に行われる青峰と黄瀬のワン・オン・ワンで決まる。
 厳密に言えば、ワン・オン・ワンを始める前迄の黄瀬と青峰の会話の回数だ。
「青峰っち! 勝負っス!」
「あ? 今日もやんのかよ。ダリィ」
「ダルく無いっス! 気のせいっスよ! ねっ、やろっ!」
「ったくお前も懲りねえなぁ。どーせ負けるくせに」
「なっ! 今日は勝つんスよ! だって赤司っちに誉められたもん!」
「残念。そこで一生分の運を使い果たしたな。ご愁傷様」
「青峰っちがご愁傷様って言葉を知ってるなんて!」
「……ブッ潰す」
 青峰の言葉と共にダン、とボールが床と接触した。そうなれば後は自ずとスキール音が響く。
「今日はマジバですね」
「新作のパイ出たんだよねー」
「あいつらもよく飽きないのだよ」
「今日は大輝に奢らせようか」
 頭の中にはシェイクの事しか考えていない黒子に倣うように紫原も頭の中は食べ物の事しか無いようだ。緑間はただただ溜め息を吐くだけだったが笑顔の赤司を見るなり後で青峰に失言を謝罪させた方が良いだろうと頭の隅で考えていた。恐らく、本人は既に忘れているだろうが。
 彼らの中のルールは至ってシンプルだ。
 会話数が五回までならばコンビニ、それ以上はマジバである。
 因みに、帰ると言う選択肢になった事は片手で足りる程だ。それになる時は、ワン・オン・ワンをしない、若しくは青峰から誘って来た場合とコンビニ及びマジバになるための条件が満たない場合のみである。
 いちいち会話の回数を数えるのは面倒だが、誰も文句を言わない辺りそれなりに楽しんでいるのだろう。
「大輝っ、涼太っ!」
「あ?」
「あ、赤司っち……」
 床にへたり込みながらも青峰に再戦を要求していた黄瀬と半ばうんざりしていながらもどこか楽しげな青峰のやりとりを赤司の声が分断させる。同時に言葉を発するのを止め、発信元を見やった。
「そろそろ体育館を閉めるのだよ」
「今日はー、マジバ行くよー」
「早く着替えて来てください」
 なるほど、外はどっぷりと日が暮れている。高い位置に設置された時計を見れば施錠する一五分前だ。
「早いっスね」
「俺はやっと終われて清々すらぁ」
「えーッ!」
 さっさと歩く青峰の後を急いで追い掛ける。途中、足をもつれさせた黄瀬はそのままビタンと音を立てて床に這い蹲った。
「い……た……っ!」
「ったく、何してんだよ」
「全く鈍臭い奴なのだよ」
「う〜っ」
 顔を上げれば褐色の肌と指にテーピングされた手が差し出される。その先を辿れば言わずもがな、青峰と緑間が呆れた表情で立っていた。
「そんなんじゃ青峰君には勝てませんよ」
「峰ちんは黄瀬ちんみたいに転けてもシュートするしー」
「涼太の練習メニューだけ増やしておこう」
「えーッ!」
 手を掴み、立ち上がる。そのままそれは離れずに、寧ろより強く握らている気がする。
 実際その役割も黄瀬の練習中での態度で決まっている事を本人が知る事はない。
 照明を落とされた体育館に浮かび上がる目の前の五つの影を黄瀬は必死に追い掛けた。置いて行かれないように。追い付けるように。
 けれども黄瀬はまだ知らない。
 溢れ出るそんな感情が、施錠された扉のように固く閉ざされる事になるのを――。 




特に指定が無かったので好き放題に書いてしまいました。すみません;
あんな決め方しなくても黒子はマジバでシェイク買ってそうですけどね!
リクエストありがとうございました。




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