キセ黄


 過疎化が進み随分前に廃屋と化した元工場から火の手が上がる。天に届きそうな火柱は闇夜を照らした。月明かりよりも地を照らすそれに、三人の男がほくそ笑んだ。

『――原因は、乾燥によるものと見ており』
 大きな薄型液晶テレビには見覚えのある建築物が映っている。それを見るや否や寝ぼけ眼だった黄瀬は途端に目を輝かせた。
「さっすが緑間っちの指示通りっスね!」
「当然なのだよ。常に人事は尽くしている。このオレが計算を狂わせる筈がない」
 緑間が広げている朝刊には先程と同じ火災に関する記事が載っているものの、印刷に間に合わなかったのか詳細は書かれていない。
「お早う、涼太」
「おはようっス、赤司っち」
 彼岸花が描かれた襖が開くと、着流しに身を包んだ彼らのボスが立っていた。
 黄瀬が青峰と紫原と共にあの工場へと赴く事になったのは、そもそも赤司の指示だ。大きな抗争でない限り、基本的に活動するのはこの三人だ。
 緑間はその聡明さで偽造工作を行う。今回の火災に関しても、「乾燥による自然発火」と言う結末を迎えられたのも彼の計算あってのことだ。しかし緑間はその頭脳だけでなくスナイパーとしての腕も相当なものである。
 そしてその偽造工作を実際に実行するのは青峰と紫原だ。体力自慢の彼らは度々この手の役所が回ってくる。特にその経験が多いのは紫原だ。彼は頭の回転も速く、力も備わっている。けれども無気力さが最大のウィークポイントであった。その為、危険を感じない、寧ろ勝算しかない仕事の時以外でしか紫原が戦線に立つことは無い。
 その点、エース格の青峰は黄瀬と共に殺しを主としていた。彼の手に掛かれば数百の兵も五分で片を付けられる、と裏社会では専らの噂だ。勿論、狭い部屋にそれだけの人数が収容されているのであれば可能だろう。今回の標的はたったの五人であった。しかし偽造工作をする敷地面積は広く、紫原一人では荷が重すぎる。だから殺しの任を赤司から与えられなかった。
 代わりに託されたのは黄瀬である。赤司が統率する帝光組の中で最も容姿に恵まれた男だ。今回の件は黄瀬以外適任者は居ないと言っても過言ではない。青峰と共に殺しを担うが、青峰と決定的に違う所があった。彼は標的の懐に潜り込んで殺すのだ。そして今回はそうして全員の息の根を止めることに成功したのである。
 標的となった組の頭は相当な男色家であったようだ。その情報を持ってきたのは帝光組の隠密機動隊である黒子だった。
「ただいま戻りました。おや、赤司君、此方にいらしてたんですか」
「お帰りテツヤ」
「お帰りなさいっス! 黒子っち!」
「ご苦労なのだよ」
「黄瀬君と緑間君も居たんですか。昨夜はお疲れ様でした」
 互いに労いの言葉を掛けると、黒子は思い出したように手の平からA4サイズの封筒を取り出す。手品が得意な黒子が披露する技の種を未だに黄瀬は解明出来ずにいる。何度目にしても「おおっ」と感嘆の声を漏らした。
「どうぞ、赤司君」
「ああ。ありがとう」
「どうやら同じ所を北の組も狙っているようです」
「矢張りな」
 茶封筒から報告書を取り出すとざっと目を通す。そんな仕草にも黄瀬は格好良いと胸を踊らせていた。考える事が苦手な彼は、書類に目を通すとどうしても三行目以降は眠ってしまうのだ。青峰に至っては封筒から書類を出すことは無い。
「次もやらせてもらえるんスか?」
 甘い色の瞳をきらきらと輝かせながら赤司に期待の眼差しを向ければ、苦笑された。
「残念ながら、無駄な争い事は避けたいからね。この件に関しては漁夫の利を狙うつもりだよ」
 赤司と緑間、二人の頭脳派によりこの組の情報は外部に漏れ出ていない。敵対する組が握っている情報も殆どが彼らが流したデマばかりだ。
「それに、出来れば涼太を夜遅い時間に出したくはないんだ」
 伸ばした腕は黄瀬の滑らかな頬の上を滑る。指の腹、手の甲、指先と様々な箇所で彼を堪能する。
「今日だってあまり睡眠時間は取れていないじゃないか」
「決めた起床時間を守り生活のリズムを整えることも大事だが、睡眠時間はもっと大事なのだよ」
「それを言うなら黒子っちはさっき帰ってきたから全然取れてないっスよ?」
「ボクはこれから一眠りするつもりですから。良かったら一緒に寝ますか?」
「ダメに決まってんだろ、テツ」
「えー、寝るならオレと一緒に寝よー?」
 黒子の甘い誘いに黄瀬がふらりと傾く寸前、赤司が入って来た時と同じ襖が大きな音を立てて開いた。不機嫌な声も付いている。
 寝起き故か人相の悪い顔がより一層際立ち、声も低くなっている青峰は鋭い目つきを以て黒子を睨む。しかし黒子も負けじと青峰を見上げた。見えない火花が散る中で、間延びした声と共に黄瀬の「ふぎゃっ」と間の抜けた声がする。
「あー、眠ーい」
「ちょっ、重っ……紫原っち、重いっス……!」
 正面から抱き留める形で紫原の巨体を支える黄瀬は若干背中が反っていた。ぷるぷる震える足は無言の救済を求めている。
「紫原君、寝るなら部屋で寝てください」
「一緒に寝てくれるならねー」
「お断りします」
「はあ? 別に黒ちんに言ってるんじゃねーし。黄瀬ちんに言ってるんだし」
「ですから、黄瀬君の代わりにお断りしているんです。黄瀬君はボクと寝ますから」
「はぁっ? 黒ちんマジウゼー」
「だからさせるかっつってんだろうがよ!」
「お前ら、朝っぱらから五月蝿いのだよ!」
 緑間が毎朝欠かさず視聴する番組、おは朝も中盤に差し掛かった頃。規格外の男が揃っているが為に作られた広いリビングも、六人しか居ない空間であるにも拘わらず賑やかになった。早起きの雀の声すら掻き消されてしまう。
 それを一喝するのは頭の赤司ではなく、右腕の緑間だ。だからだろう。彼は赤司を除くメンバーから影で「緑ママ」と呼ばれていた。勿論、本人は知らずとも赤司は知っているが。
「黄瀬! オレと寝っぞ!」
「それは断固反対です」
「峰ちんには絶対渡さないし」
「ふざけんなっ!」
「ボクは冗談が苦手です」
「ふざけてんのは峰ちんでしょー? 何その黒さ。ふざけてんの?」
「よーしお前ら今からぶっ殺す」
「くだらない事ばかり言ってないでさっさと寝るのだよ!」
 よくよく考えてみれば、こうして全員が揃うことなど珍しい出来事である。それに気付いた時、黄瀬は自然と破顔していた。
「朝から緑ママは大変だな」
「ありゃ、知ってたんスか?」
「勿論」
「流石っスね。じゃあ赤司っちの事も」
「おや、それは初耳だな。涼太、部屋でじっくり聞かせてもらえるかな?」
「……え?」
 さっと青褪める黄瀬に赤司は内心で小さく笑う。赤司が知らない筈がないのだ。
 こうして気の置けない人間の前では素直に曝け出す彼らが、隠し事が出来るなど赤司は一度たりとも思った事はなかった。


【裏社会で、殺伐としている中でもキセキに愛されているきーちゃん…みたいな?】
殺伐感が脱獄しているので指名手配をしなければなりません。
何となく洋館よりも日本家屋のイメージでした。服装については触れていませんが、仕事中はスーツ着用だと萌えます。私が。
大晦日や元日なんかのちょっと特別な日には皆揃って和服だと萌えます。私が。

>こんにちは。この度は当企画に参加くださりありがとうございました。
パロディは好き勝手やりたい放題で原型を留めておらず申し訳ないです。しかしそれが虹の醍醐味であると勝手に思い込んでおりますので^^
これからも拙宅、拙作共々、宜しくお願い申し上げます。


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