赤黄♀


 教室に紙の上をペンが走る音がする。けれども教室に射し込む光は日没を知らせるものである。遠くから吹奏楽部の音や野球部の掛け声、金属バットが硬球を打つ音が聞こえてくる。
 そんな時間に教室に残っているのは黄瀬だけである。
「先生のドエス、鬼、サド、いじめっ子」
「まさか僕のことを言っているんじゃないだろうな?」
「キャアアアッ!」
 授業中は特等席である教室の一番後ろの角の席は、誰も居ない教室で座ると寂しさが募る。いつも見ている背中もいつも聞いている騒がしさも何も無い。教卓に立つ、スーツがやけに似合う担任も。
 そんな中で気を紛らわせようと呟いた言葉はあらぬ場所から返事が来た。彷徨わせた視線が止まった先は、右隣の席であったのだ。
 気品漂うグレーのスーツを身に纏いながら頬杖をついて此方を見る男は、女子が居たら黄色い声が飛び交うような爽やかな笑顔を見せている。その実それは黄瀬にとっては是非とも拝みたくない顔である。
 この男こそ、スーツがやけに似合う担任、赤司だ。担当は数学だが、オールマイティーに何でも出来るハイスペックさが女子に大受けである。カリスマ性も抜群だ。しかもこれだけのステータスを持ちながら独身の二十代であるのだから、本気で彼を落とそうと試行錯誤する女子が後を絶たない。
 けれども「彼女は居ない」など一言も公言していないこの男のその相手こそ、今し方奇声を発した黄瀬であった。
「せっ、先生……いつから……?」
 激しく音を立てる胸を掴みながら黄瀬は表情を引き攣らせる。
「大問三の問い二を解きだした辺りからかな」
「うそぉっ!」
 先程の奇声と共に投げ飛ばされたシャープペンシルを黄瀬に渡しながら赤司は答えた。現在、彼女は大問五を解き終えたばかりである。
「嘘じゃない。お前の真剣な表情なんて滅多に見られないからな。じっくり堪能させてもらったよ」
「わあああっ! 恥ずかしいっス!」
 プリントを顔の前で持って赤面する顔を隠す。しかしその紙はするりと黄瀬の指から抜けて行った。
「所々計算ミスが目立つが、解き方は合っているから授業内容は理解しているようだな」
 女子特有の丸っこい字や可愛いと勘違いしている型崩れした字とは違い、その派手な見た目に反して意外にも整っている。そんな文字を幾つか指で差しながらケアレスミスを指摘した。
「そもそも何で私だけなんスか? 私よりも数学の成績悪い人いっぱい居るじゃないスか」
「だが、出席率の悪さでお前の右に出る者はいないな」
 頬を膨らまして幼稚な拗ね方を披露するも赤司に効果はないようだ。そこは大人の余裕か頭の回転の速さの違いか、赤司から返された言葉にはぐうの音も出ない。
 事実、人気モデルの彼女は度々仕事で遅刻や欠席が目立つ。それも、黄瀬が三年になり部活を引退した頃からは特に顕著だった。
「でも、ちょっと多過ぎって言うか……」
「黄瀬は、本当に僕が出席の悪さを補う為にプリント三枚分を出したと思ってるの?」
「え?」
 顔を上げれば直ぐ目の前に赤司の整った顔があった。窓から射す光に彼の瞳が一層赤く燃え上がる。
 息を吸った時には既に二人の影が重なっていた。
 現在、黄瀬にとっての右側は後ろの席と言うこともあって背面黒板と掲示板しかない。変わって左側は正面黒板や出入口がある。万が一人が廊下を通れば確実に見えてしまう。けれどもそれは、赤司の手に奪われたプリントによってその場しのぎの壁が造られていた。
「僕だって、我慢しているんだけど?」
――涼。
 僅かに距離が離れても唇の先がまだ触れ合っている状態で、赤司が名を呼ぶ。一般生徒が聞いたことも無いような低くて甘さを含んだ音だ。
「あ……かし、っ……」
 二人きりの際に使う呼び名は最後まで紡がれる事なく、再び繋がった。今度はより、深く。
「歯止めが効かなくなりそうだ」
「ここ、学校っスよ」
「知ってるさ。僕がそんなヘマをするはずが無い。折角側に居られるのにそう易々と手放すわけが無いだろう」
 絶対的な自信を持った言い草に、それもそうだと納得せざるを得ない。それは黄瀬がそれ程赤司の事を熟知しているからだ。
 もう一度。今度は触れるだけの軽いものだった。
「けど、学校でするのもなかなか興奮するな」
「……ばか」
 内緒話をするように近付いた顔は、そのまま引き寄せ合うように唇を重ねた。
 廊下を歩く誰かの足音が反響するまでそれは続く。



【中学の先生と生徒設定で甘とか平気でしょうか…?】
平気です。寧ろバッチコイです。
特に裏設定などは考えていませんが、黄瀬、黒子、紫原が生徒で、赤司、青峰、緑間が先生と考えたらちょっとしっくりきました。でも黒子も紫原も先生と言うのもありですよね。逆に青峰や緑間が生徒でも美味しいです。そしたら緑間は生徒会長で赤司は生徒会顧問ですね。
関係を知る青峰からは影で「ロリコン」と呼ばれていたり。勿論知らない赤司ではないので教師ならば手伝いと言う名の雑用を、生徒ならば部活のバスケで特別メニューをやらせていそうな赤司先生だなと。
プリントやノートや教科書でちょっとした壁を作ってちゅーさせるのがコッソリ好きです。壁ドンばりに萌えませんか?私だけ?

>こんにちは。大変長らくお待たせしてしまい申し訳ありませんでした(><)お祝いのお言葉ありがとうございます!
これからも拙宅を宜しくお願い致します。最近最高気温ですら低い日が続いておりますから、匿名様も何卒ご自愛くださいませ。
リクエストありがとうございました。


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