宮黄


 気温が高かろうが低かろうが王者と呼ばれる秀徳高校バスケ部の練習は普段と変わらない。その辛さ、厳しさから戦線離脱する者も後を絶たないくらいだ。
 しかし四月から粘り続けている一年レギュラーは上級生の間でも一目置かれていた。と言っても、それはスタメン以外に限る。
「一年っ! チンタラしてんじゃねーよっ! 轢くぞっ!」
 一年の間では「恐い」事で有名である宮地が本日も例外なくがなる。末尾に物騒な言葉が付くのも毎度の事だ。あの高尾ですら初めは「怖い先輩」と思っていたのだから宮地のそれは相当である。
 けれども最近やけに彼の周りを彷徨く犬がいる。それが秀徳が獲得した緑間に次ぐ二人目のキセキの世代、黄瀬であった。
「みゃーじセンパーイ」
「宮地だっつってんだろ」
「えー、でも『みゃーじセンパイ』の方が言い易いじゃないスかぁ」
「ったく。何だよ」
「えへへー。みゃーじセンパイっみゃーじセンパイっ」
「うるっせぇ」
 入部当初から何故か黄瀬は良く宮地に懐いていた。また宮地も彼を邪険にしたことは無い。そんな二人はいつしか秀徳バスケ部の名物にもなっていた。しかし宮地はそれを知らない。
 緑間も高尾も今でこそ宮地の並々ならぬ努力や実はアイドル好きだと言うことを知っているが、それ以前から懐いていた黄瀬には疑問だらけだ。二人が出した結論は、キセキの世代として一線引かれる中で宮地は一切関係無く接した説が有力である。
「みゃーじセンパイ、この後ワンオンワン付き合って欲しいんスけど」
「緑間に頼めよ」
「緑間っちの自主練はシュート練っスもん」
「高尾は」
「和君は緑間っちからかうので忙しいじゃないスか」
「何だそりゃ」
 幾ら季節は冬とは言え、練習で汗を掻いている。にも拘わらず、黄瀬は宮地の背中から抱き付くように密着していた。
「ダメっスか?」
「ったく、しょうがねぇな」
「やった! みゃーじセンパイ大好きっス!」
「あーハイハイそりゃどーも」
 恐らく犬ならば目一杯尻尾を振っているだろう。
 自分にも他人にも厳しい筈の宮地がここまで黄瀬に絆されているのは彼を良く知る三年も驚いていた。関係性は定かでないが、アイドル好きの宮地に黄瀬の顔は効果があるのかも知れない。
「みゃーじセンパイ。オレ、明日英語の小テストの再試なんスよー」
 自主練後、部室で着替えていると黄瀬が情けない声を出した。
「は? またかよ。っつか小テストで再試ってお前どんだけバカなんだよ。切るぞ」
「だってぇー。過去完了とか関係代名詞とか意味不すぎっス」
 唇を尖らせて拗ねる黄瀬に宮地は大袈裟な溜息を吐く。数センチ下の頭を乱暴に撫でる。黄瀬の抗議の声は聞き流して、口を開いた。
「じゃあウチ来いよ。勉強見てやる」
 宮地の成績の良さは部内でも有名だ。一年は知らずとも、緑間と高尾は大坪から話を聞いている。しかも監督がテスト期間中の練習を許可する程であるから相当良いのだろう。
「お前、よくその頭で秀徳選んだな」
「ヒデーッス! オレだってやれば出来るんスからっ」
「そーかよ。精々小テストで再試にならない程度には頑張れ」
「むぅーっ」
 自主練の時間帯と言うのもあってか、その場にはレギュラーの数人しか居なかった。もしもこれが練習中の体育館ならば、他の一年は皆、二度見するだろう。中には顔を洗いに行く者や目を擦ったり頬を抓ったりする者も居るかも知れない。
 それ程までに今の宮地の纏う空気は穏やかな物であった。年相応の笑顔を見せている。「明日は大雪かな」と高尾が零せば、静かに緑間が彼の足を踏むのだった。
「宮地サンっ! 肉まん買って!」
「は? ふざけんな。刻むぞ」
「みゃーじセンパイっ! オレ、『とろ〜りピザまん』が良いっス!」
「あ? ったく、しょうがねぇな」
「何で! 涼ちゃんだけズルいっ!」
「うっせーな。刺すぞ!」
「絶対ぇおかしいって! なぁっ、真ちゃんっ」
「オレに振るな」
 自主練するメンバーは大体決まっている。だから校門を潜るのもほぼ同じメンバーだ。
 通学路の途中にあるコンビニは部活帰りの秀徳生御用達である。その為、他の同じチェーン店よりも食べ物の種類が豊富だ。
「みゃーじセンパイは何にするんスかー?」
「季節限定って言われたら買うしか無いよなー」
「あ、美味しそうっスね!」
「半分こするか?」
「するっス!」
 別段恋人同士と言うわけではない。しかし二人は部室を出た辺りから黄瀬の「寒いっス」と言う言葉と共に絡められた腕によりその距離は非常に近かった。後ろから歩いて見ていれば完全に恋人のそれである。
「大坪サン。あの二人って」
「驚くくらい仲がいいよな」
「え」
「宮地もなかなか面倒見がいいからな」
「あの、………………そっすね」
 最早何も言うまい。静かに高尾は思った。恐らく高尾が知る中で一番まともに話してくれそうなのは木村だろう。しかし生憎彼は一足先に帰ってしまっていた。
「真ちゃん。オレ、秀徳で良かったんかな」
「は?」
「ううん。何でもない。イメージ崩れんのが内輪だけならいっかって思っただけ」
 主将はバスケから離れると只の良い人で更に天然が入っている。加えて度々高尾の笑いのツボを刺激してくる。木村は合宿中に差し入れをくれたりするが、宮地の物騒な物言いに本気とも冗談とも付かない返しをする。ある意味物騒な人だ。緑間は言わずと知れた変人である。宮地も厳しい上に攻撃的な言動が多いのだが、バスケを離れればアイドル好きと言う一面を持つ。黄瀬はずば抜けたバスケセンスと容姿を持っているけれど、秀徳の学力的には厳しいオツムの持ち主だ。
 そんな個性派揃いが、一度ひとたびコートに立てば王者としてのプライドだとかキセキの世代だとか恐れられるのだから人間見た目では分からない。
「あれ、涼ちゃん二つ買ったの?」
「こっちはみゃーじセンパイのっスよ。後で半分こしよって言ってくれたんス」
「ぶはっ! 宮地サンが『半分こ』っつったの?」
「そっすよ?」
「ブッフォ……っグホッゲホッゴッホッッ」
「ちょっ、和君? 大丈夫っスか?」
 外に出て見れば黄瀬が左右の手に二種類の蒸した饅頭を持っていた。どちらからも良い匂いがする。因みに高尾はキムチまんを購入していた。
 宮地はトイレに行っているようだ。
 笑いすぎて噎せた高尾を心配するも、生憎黄瀬の両手は塞がっている。背中をさすってやることも難しそうだ。緑間は少し離れた所でお汁粉を飲んでいた。此方の様子に気付いているにも拘わらず、我関せずを貫いている。どちらかと言えば「他人の振り」に近い。
 その間も高尾は息を整えつつも喉に詰まる唾液に苦戦していた。
「か、和君?」
「ゲホッゲホッっ」
「ほっとけ」
「みゃーじセンパイ!」
「ちょっ宮地サン、ひでぇ」
 漸く落ち着き始めたのに高尾はまた腹筋を震わせていた。笑いの沸点が低いと言うのも考え物である。
「荷物貸せ。お前は食い物持ってろ」
「はいっス。あ、じゃあみゃーじセンパイ、あーんして?」
「ん」
「ブフゥッ!」
 これで只の先輩後輩とか有り得ねーっしょ!
 高尾の主張も尤もである。しかし同意してくれそうな八百屋の息子人は、残念ながら明日にならなければ会えそうに無い。



【甘めでお願いします!秀徳in黄瀬くんとかだと嬉しいです!(絶対ではないです)】
何となく、恋人じゃない方がオイシイ気がしたので。ちょっと高尾がしゃしゃり過ぎな気もしますが。因みに本作では高尾と緑間には色恋系の関係はありません。
それから黄瀬に「みゃーじセンパイ」と呼ばせたかった…!すみません。完全に私の願望を入れています。
宮地が黄瀬より2センチ高いとか!鼻息も荒くなりますね!
宮黄流行らないかなぁ。
リクエストありがとうございました。


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