赤黄


 授業と授業の合間の短い休憩時間だろうと黄瀬は赤司の側に居た。短い逢瀬だろうとお構い無しだ。
 しかし「側に居た」とは些か語弊がある。
 事の詳細を述べるならば、赤司と黄瀬は共に同じクラスであり、席も四月からずっと隣同士だ。だから常に側に居ることになる。けれども休憩時間に入った時の二人はそれ以上に距離が近付くのだ。
 何か話す時はキスでもしてしまいそうな程顔が近付く。昼休みなど屋上や中庭で遭遇すればその糖度に食欲も無くなるかもしれない。
「赤司っちー」
「何だ?」
 中庭のベンチで日向ぼっこをしながら昼休みを過ごす黄瀬の膝には赤司の頭が乗っている。こうして堂々とモデルの膝枕を享受出来るのは赤司だけだろう。
「玲央ちゃんがね、この間入浴剤をくれたんス。それ昨日使ったらすっごくしっとりすべすべになったんスよ!」
 触って触って! と袖を捲って陽の下に日焼けを知らない肌を晒す。すると赤司はその手首を掴み、無言で袖を戻した。
 困ったように眉を下げる黄瀬の表情は少し強張っている。けれどもそんな傷付いた表情も束の間の物だ。
 赤司の手は流れる動きで黄瀬のシャツの裾をズボンから抜き出すと、隙間から手を滑り入れた。
「ひゃんっ!」
「うん。悪くないな」
「っ、もー! 赤司っちのえっち!」
「へぇ」
「あっ、ダメッス……」
 頬をほんのり桜色に染めて内側に空気を溜める。そうして怒ってみせれば赤司の目は愉しげに歪んだ。
 捲った事で露わになった腹部に口付けると頬は紅梅色に染まった。
「涼太の肌はいつ触れても僕好みだ」
「良かったっス」
 勝ち誇る笑みを湛え赤司が腕を伸ばして頬に触れる。赤味で大凡の予想はついていたが、手の平から伝わる温度は少々高めであった。吸い付くような肌触りは柔らかく滑らかで整った顔立ちも相俟って、時折、本来の性別を記憶の彼方に追いやってしまうことがある。
 そんな錯覚を起こさせるときの黄瀬は決まって恋をする少女と何ら変わらない瞳をするのだ。当然、それは視界に赤司が入って居なければならない。
「玲央ちゃんがくれたのはローズだったんスけど、他にもハニーとかスイートピーとか色々あるみたいで今度お店に連れて行ってくれるんスよ。ねぇ、赤司っちはどの匂いが――」
 適温を伝えるやや固い手の平に頬を僅かに押し付けながら話す黄瀬の声は弾んでいる。赤司の好みを訊こうと開いた口は、あっと言う間に塞がれてしまった。
 話に夢中でいつ赤司が上体を起こしていたのか気付かなかったようだ。
 重なった唇からは小さくくぐもった声で黄瀬の喘ぎが漏れる。執拗に舐られ犯される口内が甘く痺れ始めた。黄瀬の瞳はうっとりと蕩けている。ゆっくりと、態とリップ音を立てながら離れた唇には唾液の糸が繋がっていた。
「僕は涼太の匂いが好きだよ。それが消えないならば、どの匂いを付けてくれても構わない」
 赤い舌を伸ばして唾液を絡め取る。妖艶な笑みを浮かべて赤司は「但し」と付け加えた。その時の瞳には一閃の鋭い光が射し込んでいた。
「僕以外の匂いを付けてきたら、その時は――分かるね?」
「んっ」
 返事の代わりに黄瀬の目が伏せられる。そしてまた濡れたままの唇が重なった。
 昼休みの終わりを告げる鐘は丁度インターバルと同じ時間が経過しなければ鳴らない。それまで中庭の他のベンチを使っている者や芝生の上で昼食をとっている者達は目の遣り場に困ることになるだろう。



【洛山黄瀬で人目もはばからず甘々】
ただイチャついてるDQNカップルな気もしますね。すみません。私の文章力のせいです。
赤黄は学校で見せ付けるような事をしていても誰一人として当人に文句を言う人は居ないと思います。居たとしても四月の内だけですね、きっと。
黄瀬に「実渕センパイ」と呼ばせるのも良かったのですが、個人的に「玲央ちゃん」と呼ばせたくて…。すみません。呼称は趣味・願望丸出しです。
本当は小太郎や永吉さんにも出番を設けるつもりだったのですが、書いていく内に赤司がそうさせてくれませんでした。びっくりです。
本当は膝枕の時に後ろから小太郎が黄瀬(の頭)を発見して大声で呼びながら近付いて「隣座っていい?」と言って近距離まで来た所で赤司が「駄目だ」って声を出して小太郎が驚いて逃げて行ったりとか、部活の時に永吉さんから二人のイチャつきっぷりを久々に目撃して食欲が失せたとか(直ぐに玲央が「牛丼八杯食べてたじゃないっ!」って言ってたり)そんな話を考えていたのですが…。ホント、入る隙がありませんでした…。
邪魔するなってか。邪魔するなってことか。

>こんにちは。大変長らくお待たせしてしまい申し訳ありません。お祝いのお言葉ありがとうございます。
拙作で楽しんでいただけて良かったです。いえいえ、企画に参加していただけて私と致しましては大変嬉しく思っております。
これからも地道に頑張りますので、どうか生温い目で見守ってやってください。
リクエストありがとうございました。


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