灰黄


 午前の授業を終えた事を告げるチャイムが鳴り響く。学級委員の号令で挨拶を終えると生徒は筆記用具を片付け昼食の準備に取り掛かる。そんな行動は見向きもせずに教師は前方のドアから出て行く。それと入れ替わるように後方のドアが開いた。
 気怠い声が騒がしい室内に響く。
「リョータァ、面貸せ」
 顔を出した灰崎は眉間に皺を刻ませたまま席から動かない黄瀬の腕を掴んだ。更に黄瀬の表情は険しくなる。
「オレ、食堂行きたいんスけど」
「知るかよ。後で行け」
 黄瀬の薄く開いた唇から小さく溜息が漏れる。それを了解の意と取ったのかそのままドアに向かって連れて行った。
「痛い」だの「離せ」だの文句を口にする。しかし灰崎が聞き入れる事は到頭無かった。
 教室の廊下に面した窓から彼らの姿が見えなくなるまで寝起きの目で紫原がぼんやりと眺めていた。
 そんな視線に気付くわけもなく、二人は周りの視線を気にせず廊下を進む。階段を上れば広々とした真っ青なスクリーンが視界を独占した。
「ショーゴくーん」
「んー」
「『んー』じゃなくてー」
「うるせーな。昨日あんま寝てねーんだよ」
「いやいやそんなの知ったこっちゃないっスわ」
 ゆっくりとした動作で寝返りを打ち、下から見上げる灰崎の目はどこか重たそうだ。本当に眠いのだろう。
 それを見てしまえば大半を冗談で占めていた言葉もそれ以上黄瀬の口から出ることは無かった。例え、男に膝枕をしてあげていようとも昼休みが終わる頃には足が痺れいようとも。
「モデルの膝枕はお高いっスよ?」
「柔らかくねー枕が何言ってんだよ」
「そりゃ筋肉っスもん」
 野球選手のように筋肉隆々と言うわけでは無いが、しなやかな筋肉はそこにある。まだ始めたばかりであるからレギュラー(但し黒子は除く)と比べればかなり劣る。
「また長電話っスか?」
「やりたくてしてんじゃねーよ」
「とんだ彼女持ったっスね」
「元はお前んだろーが」
「いや付き合ってねーし」
「はっ、明白あからさまに嫌そうな顔してんじゃねーよバァカ」
「むきゅっ」
 意地悪な笑みを浮かべて鼻筋の通ったそれを摘む。突然呼吸の手段を遮断され、思わず間抜けな声が出た。それにまた灰崎が笑う。
「もーっ」
「お前、鼻もキレーだよな」
 睡眠不足の原因となった女は小鼻周りが汚かった事を思い出す。化粧で誤魔化しているが近くで見ると良く分かる。香水の匂いもキツい。
 けれど目の前の男はどうだろう。化粧はしていないのに近くで見てもキレイに整っている。部活で汗を掻くからと香水もつけないらしいが膝の上を占領した時から仄かに鼻腔を擽る匂いは大変好ましく思う。
 これ程差が出るものなのか。意図せずして口から漏れた溜息は存外盛大なものだった。それを疲れと取られたらしい。
「そんなに嫌なら別れたらどうっスか?」
「もう電話切る時に捨てた」
「ひっでー」
 一瞬目を丸くしていたが直ぐに良い意味で崩れた顔は恐らくまだ誰も見たことの無いものだ。
 鼻を摘んだ手で今度は口角を上げているその唇に触れる。親指の腹だけだが充分だ。
 他の肌よりは温度が低いかもしれないが、心地良い温かさが伝わってくる。冬の寒空の下、ささやかな暖である。
 ラメ入りルージュの上から更にグロスまでつけて過剰なまでに潤いを見せる唇は、実際触れてみれば見掛け倒しも良い所だった。今触れているそれは少し滑りが良いのでリップクリームを塗っているのだろうが、それでも充分な潤いを感じさせる。わざわざ色を付けずとも良い色だ。そして、柔らかい。
「ショーゴ君」
 指に温かい息が掛かる。
「何」
 影っている筈なのにそこに太陽があるような、明るい色の双眸が灰崎を映す。幾らか影を作る手助けをしている瞳と同色の髪に触れる寸前で、灰崎の手は先程触れていた箇所よりももっと温かさを感じるそれに包まれた。優しく握られた手から黄瀬の体温を感じる。
 唇の柔らかさとはまた違う柔らかさを以て黄瀬の双眸は優しく笑った。
「おやすみ」
「……オヤスミ」
 灰崎の口角が僅かに上がった。
 下ろされた瞼の裏は暗闇が広がっている。けれどそこは、柔らかくて優しくて温かい。
 これならば良い眠りにつけそうだ、と灰崎は沈む意識の中で笑った。



【なんだかんだいって仲が良い二人】
これで付き合ってたり無かったり。
キスしたい、キスされたいって双方自然に思ったけどそれを黄瀬が真っ先に止めたらいい。違うでしょ。ショーゴ君とオレはそうじゃないでしょ。って自分に言い聞かせる。
二人は両片想いの時間が長ければ私が萌える。後、女を奪うのは彼女面するのがウザイけど邪険にも扱えないしうーんってなってる黄瀬の為だったら私が萌(ry
高卒して暫く(数ヶ月でも数年でもいい)して偶然出会って(それから何度か逢瀬を重ねて)漸く実るとか何とか。
ずっと灰黄を書きたくて漸く20巻も出たので手を出しました。19巻だけではあまりキャラが掴めなくて…。と言うわけで灰黄第一号です。慣れてない感がひしひしと伝わってくるでしょうが目を瞑っていただけたら幸いです。
リクエストありがとうございました。


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