赤黄


 メールが来た時、体が震えた。彼が現れた時、泣きそうだった。けれど黒子っちの付添いで来た彼が羨ましかった。後で現れた火神っちが憎かった。
 余程酷い顔をしていたのだろうか。皆は赤司っちが火神っちに鋏を突き立てた事への驚愕を露わにしていたから意識はそっちに向いているとばかり思ってた。けれど実際は違う。
「不細工」それだけ言って青峰っちはさっさと今吉サン達の所へ戻って行った。さっきまで皆が居た場所にはオレだけが立っていた。
 狡い。火神っちも付添いの人も。それから緑間っちも。オレが一番近くに居たのに名前を一回呼ばれただけ。付添いの人は話し掛けられた。緑間っちはもっと話してたし距離が近かった。火神っちはもっと近かった。狡い。
 それを言ったら桃っちが曖昧に笑った。桜井クンは謝ってて若松サンは引き攣ってた。
「こら重症や」主将から愉しげに言われた言葉をオレは理解出来なかった。
 重症? 違う。重傷だ。赤司っちがオレ以外を見る。たったそれだけでオレの心臓は鋭利な物で切り裂かれた。深く抉られる。これはきっと比喩じゃない。
「オレ、何の為に桐皇に来たのか分かんないじゃないスか……」
 憧れの青峰っちを追い掛けて来た。大半はそう思っている。けど実際は違う。それでもオレは否定しなかった。知らないならそれでいい。本当の事を知るのはオレだけでいい。本当の事を知って欲しいのは、赤司っちだけだから。
 本当は赤司っちを追い掛けて行きたかった。でもそれじゃダメだ。赤司っちの瞳にオレを、〈黄瀬涼太〉を映して貰うには対峙して真正面から戦わなきゃいけない。
 そこでオレは赤司っちを除くキセキのみんなと同じ学校に行くことを決めた。それで消去法で選択したら最も可能性のある青峰っちを選んだだけのことだ。
 それなのに。「初戦敗退……スか」
 青峰っちが二人居るような状況下で誠凛に負けた。敗因はオレにある。オレが勝利への飢えを持していなかったからだ。オレが飢えていたのは赤司っちだけ。足りないのは赤司っちだけ。
 若松サンが新主将になるって話、青峰っちはちゃんと聞いていただろうか。そんな事を考えながらオレはユニフォームのままフラフラと会場の外へ足を向けた。
「……寒」
 荷物は全部桜井クンら一年に任せた。青峰っちですら自分の荷物は自分で持ってったのに。
 先生も忙しいと言うこの時期は、寒さも厳しかった。まるでオレを責め立てるみたい。
「さむい」
「だろうな」
 独りきりだと思っていた。だからこそ余計に返ってきた言葉に、声に驚きを隠せなかった。
「赤司っち……」
 ひやりとした冷たい壁に凭れ掛かっていると出入口の分厚い硝子扉から姿を見せた。どうするのかと思ったが目を合わせられなくて、オレは足元に視線を落とした。
「強くなったな」
 赤司っちはオレに倣うように隣に並んだ。
「全然だめっス。弱いから負けた」
 負けた。そう口にして初めて心臓がキュウッと苦しくなった。
 負けた。つまりオレはその瞬間から赤司っちに捨てられる事が決まっていたのだ。
 そう思ったら痛む心臓から生産されたのか、涙点からつぷつぷ水分が溢れ涙袋の形に沿って広がり始めた。
「オレっ、オ……レはっ」
 嗚咽を噛み殺しながら言葉を紡ぐのはどうやら努力しても不可能なようだ。情け無い声が啜る音に混じる。
 ずるずる壁伝いにしゃがみ込んだ。これ以上無様な姿は見せたくなかった。
 膝を抱き抱えるように座り、膝頭に額をくっつけて完全に顔を隠した。
「涼太」
 びくりとした。その声音が想像以上に優しかったから。その髪を撫で梳く手付きが酷く心地好かったから。
「涼太」
 汗を掻いた状態で外気に触れたからか肌に当たる毛先が冷たい。そんな髪をふわふわと撫でられた。
 丸であの頃に戻ったみたいだ。入部した年の、一軍に上がった後の、レギュラーになった時の、初めてスタメンでだしてくれた公式戦の試合後のようだ。
「お前は未だ、僕を追い掛けていろ」
 頭から何かを被せられた。大きな布のように思えるが詳細は実際目にしてみないと分からない。
 旋毛付近に手の平よりも温かいソレが触れた。本当に欲しい場所はソコじゃないのに。けどきっとこれは負けたペナルティーだ。勝っていたらご褒美をくれた筈だから。
 ちゃんと、唇にくれた筈だから。
 温もりがフッと消えてオレは漸く顔を上げて立ち上がった。ハッとしたように勢いがついていたから機敏だったと思う。それでも一瞬遅かった。
 重たい扉はオレと赤司っちを隔ててしまった。もう、行くことは出来ない彼方と此方を線引きするとても重たい境界線だ。
「どっからもって来たんスか」
 オレが動いた時にバサッと地面に落ちた赤と黒のジャージは正しくオレの物で……。
 どこに持って居たのだろうか。その服からする残り香が、赤司っちがこれを持っていたと言う何よりの証拠になった。
 それから――。
「……バカじゃねーの」
 緩く結ばれていた袖からは、去年も一昨年も赤司っちが使っていたのと同じ使い捨て懐炉が充分に温まった状態で出て来たのも何よりの証拠だろう。
 懐炉に書かれた数字の羅列にオレは漸くあの頃のように笑った。
 始まったばかりの大会だけれど、早く閉会式が終わればいい。それまで『待て』を貫かなければならないのは、矢張り赤司っちからのペナルティーかもしれない。



【どんな赤黄でも嬉しいのですが、もしよろしければ赤司×桐皇黄瀬で書いていただきたいです!…ちょっと(だいぶん)マイナーですが;;】
桐皇黄瀬のエロさを末端の人間が表現出来るはずも無かった…orz
海常黄瀬より桐皇黄瀬の方がエロさが増してると思います。余所様の黄瀬に限りますが!
スレてるのか甘いのか何なのか良く分からない仕上がりになってしまいました。すみません。
冬に汗だくの状態で薄着のまま外に出るスポーツマンが一体どこに居ると言うのか。黄瀬は赤司しか見えてません。
「同じAB型なのに、同じPGなのに、全然違うっス」って青峰にグチグチ言ってウザがられてても良いです。「赤司っちも関西弁喋るようになるんスかね」「知らねーよ」「なったら今吉センパイと共通点増えるっスね」「だから知らねーって」「でもセンパイ腹黒眼鏡だからなー」「うぜぇ洛山行けようぜぇ」って毎回携帯フォルダ内の赤司の写真見ながら言ってたら良い。盲目黄瀬!

>こんにちは。この度は当企画へご参加くださいまして誠にありがとうございます。
また、お祝いのお言葉もありがとうございます。
拙作を好きになっていただけて大変光栄です。ありがとうございます!
黄瀬受けしか書けないので他CP好きの方にはつまらぬサイトですが^^
更新は書けるときに書いた物を上げたりストックを上げたりしているだけですので。最近はストックも無くなりましたが(笑)
それに他サイト様で推敲されてから上げる方をお見かけしますが、拙作はそれを殆ど致しませんので誤字脱字が目立つ目立つ…;;;手抜きと言われればそれまでです(笑)
葉月様も作品を作られていらっしゃるのですね^^大変な事と存じますが共に頑張りましょう。
リクエストありがとうございました。


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