海黄♀


 私はいつも彼らに振り回されている。

「そこは普通レディーファーストじゃないんスか!?」
「いやいや年功序列だろ」
「ここは日本で縦社会だからなー」
「ムーッ!」
 楽しげに笑いながら森山センパイに頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜられる。折角朝からブローしてきたのに! 何て主張も「どうせ動いたら乱れるじゃん」と取り合ってもらえない。
 ご機嫌斜めになりながらコートでミニゲームを繰り広げるセンパイ達を見る。その目は恨めしいと語り掛けているがボールを追い掛ける事に夢中な彼らは気付かない。それでも、
(あー、格好イイなー)
 一心にバスケを楽しむ姿は眩しくて、私の機嫌は直ぐに上昇していく。何とも現金だと我ながら思う。けど仕方がない。
「明日の練習試合で疲れが残ってトリプルスコアでボロ負けしたって知らないっスよ!!」
 でも矢張り悔しいからコートの外で目一杯僻んでやった。
 ボールだってセンパイの「取ってこい」の先輩命令(心なしか‘こ’と“い”の間に長音があったような気もする)に従ったのに。結局まだ一ゲームしかやらせてもらえていないのだ。少しくらい拗ねたって構わないだろう。
「笠松、黄瀬が拗ねてる」
「良いんだよ。アイツ、バカだから好きなことに夢中になると何も見えなくなるし。オレ達がどうにかするしか無いだろ」
「あ、小堀先輩がフォ(ロ)ーに回ったっすね」
「一先ず落ち着いたか?」
 飲物を持って来てくれた小堀センパイとのお喋りで、コート内で交わされた会話の内容など知る由も無い。
 翌日、私は神奈川県内の某私立高校に居た。監督の車で先に現地へ行っていた私は、控え室やトイレ、水場の場所確認や対戦校の人に簡単な挨拶を済ませる。そして、時間になると荷物を持った選手を校門まで迎えに行った。
 一応強い学校ではあるが、矢張り海常の選手の方が一枚も二枚も上手のようだ。結果はダブルスコアで海常に白星が付いた。センパイ達の格好イイ所は、例え差がついたとしても最後まで手を抜かない所だろう。
 控え室で選手が着替え終わった頃合を見計らって私は中に入った。
「荷物は監督が車で学校に運んでくれるみたいっス」
 先に駐車場へと向かった監督の言伝を聞かせる。反省会は後日改めてビデオを見ながらやるようだ。
 まだ着替えている選手も居たのでさっさと荷物を駐車場まで運ぼうと道具の詰まったバッグを持ち上げる。しかしそれは直ぐにヒョイと横から伸びて来た腕により奪われた。
「笠松センパイ?」
「荷物はオレらが運ぶから、お前はまだ着替えてる奴らと一緒に来い」
「え、でも……」
「女の子に重たい荷物持たせられないだろ?」
「私マネージャーっスよ? しかも試合した選手に持たせるなんて……っ」
「体調不良の時くらい素直に男に甘えなさい」
「みんなお前を心配して(る)んだよ」
 そう言って小堀センパイも森山センパイも早川センパイも荷物を持ってさっさと行ってしまった。そして笠松センパイも、
「じゃあお前ら、黄瀬のこと宜しくな。黄瀬、辛かったらゆっくりで良いからな」
 それだけ言い残して扉の向こうへと姿を消した。
 最後にポンと頭に置かれた手の温もりがやけに残る。扉を見つめたまま動けずにいた私は自覚出来るくらいに顔が赤かった。
(何で……)
 こう言う時、どんな顔をすればいいのかどんな態度でいればいいのか分からない。二年間所属したバスケ部では一度も無かった扱いで、私の中にはまだマニュアルが作成されていないのだ。しかも毎回突然されるのでそんな物を作り出す余裕も無い。
「っ、もぉ〜」
 情け無い声は賑やかな部員の声に掻き消された。
「矢張りまだちょっと青白かったな、黄瀬」
「あ(れ)で本人気付いて無いんですよね?」
「だから余計に笠松は心配何だよな?」
「オレだけじゃねーだろが」
「まぁ、本人無意識だろうけどねー。腰さすったりお腹に触れたり時々眉間に皺寄せたりさ」
「原因が原因なだけに此方から指摘するわけにもいかないしな」
「アイツが自分で気付かないならオレらが気付いてやれば良いだけの話だろ」
「おーおー、我等がキャプテンは男前だな!」
「茶化してっとシバくぞ森山」
 こんな会話が道すがらされていたことなど、矢張り私が知る由も無かった。



【普段は後輩、犬扱いなのに時々の女の子扱いする海常に戸惑う黄。】
これといった描写はないですが、黄瀬ちゃん女の子週間設定です。
入部した頃は全く表に出してなかったのに、懐いてからは表に出るようになってたらいいなと。黄瀬自身はそれに気付いてない。今まで通り隠せてると思い込んでる。
実はキセキの前でも出したことが無かったらムネアツです。
リクエストありがとうございました。


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