森黄♀


 森山の悩みは尽きることを知らない。その殆どが彼女である黄瀬に関するものばかりだ。
 如何せん恋人はティーンズ雑誌は勿論、大手メーカーの有名スポーツ飲料水のCMに起用されたり某週刊漫画の表紙を水着のグラビアで飾ったり何かとその名を馳せている。事務所から何を言われているのかは知らないが、何も言って来ない限りは大丈夫なのだろう。
 そんな黄瀬だからこそ虫が付きやすい。浮気性どころかひたすら一途な黄瀬が靡く事は無いが人のいい彼女は相手を邪険にする事もない。故に虫が付きやすいのだ。
 しかしこれらの虫から守るのは難しい事ではない。が、最も厄介な人物がいる。
 それは――。
「黄瀬さん」
「あ! 黒子っちーっ!」
 突然背後から聞こえた声と黄瀬の視線が其方に向いてしまった事に内心舌打ちをする。渋々目を向ければ其処には厄介な人物の一人、黒子――
「おいテツ。勝手に居なくなんな。赤司にドヤされっぞ」
「勝手な行動は慎め」
「ミドチンがそれ言うのー?」
「まあいい。涼、久し振りだね」
――だけではない。厄介な人物、またの名をキセキの世代が勢揃いしている。黒子一人ならば何とかと思っていた森山だが、全員が揃ってしまっては多勢に無勢な感じが否めない。
 しかしこんな事でいちいち弱気になるような森山ではなかった。ピンチはチャンスとは良く言ったものだ。
「みんなが休日に揃ってるってことはバスケっスか?」
「はい。後で火神君も来ますよ」
「黄瀬も来るか?」
 黄瀬の問いに旧相棒コンビが答える。と言っても青峰の方は誘いだ。
 彼の言葉に黄瀬の目がキラリと輝く。それを見逃す連中ではなかった。
「まあ、人一人が増えた所で大して変わらないのだよ」
「黄瀬ちんとバスケやりたいしー」
「涼、おいで」
 また皆とバスケが出来る。これがどれほど魅力的な誘いかは黄瀬も充分に分かっていた。勿論、森山も何となくそうなのだろうと言うことは理解している。
 だからこその言葉だった。
「涼ちゃん、行ってきたら? コイツらとは滅多に集まれないんだし」
 言えば黄瀬の視線は漸く隣にいる森山へと向けられる。嫉妬心は見せない年上ならではの余裕ある瞳でそれを迎える。すると組んでいた腕の力がきゅ、と強くなった。
 そこで森山は確信を得る。チャンスが大当たりした、と。
「折角なんスけど、今回は辞めとくっス。今日は一日、森山センパイとデートなんで」
 森山の口角が自ずと上がる。
 そもそも、キセキが現れてもいつものように黒子に抱きつかなかった時点で黄瀬の中の優先順位が昔と違う事を示唆している。それなのに今、彼女ははっきりと提言した。
 これが一番手っ取り早く且つ確実に牽制出来る方法である。だからこそ敢えてキセキに譲るような言葉を言ったのだ。
「そう言うわけだ。悪いな」
 本日最高の笑顔を貼り付け上機嫌な声で謝る。つまり、謝罪するつもりなど端から無い謝罪だ。
「じゃあ行くか」
「はいっス! みんな、またねっ」
 背を向けて歩き始めて数歩の所で森山は首だけを動かして彼らを見る。その顔には勝ち誇った笑みが浮かんでいた。



【甘めでさりげなく周りをキセキの世代とかにさり気なく牽制する森山先輩】
黄瀬を恋人にするのは一筋縄ではいかないでしょうね。
残念な森山はいざという時はしっかりちゃっかりしてると思います。
リクエストありがとうございました。


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