高黄


 モノトーンな家具で統一されたシンプルな部屋で一際目立つのがその部屋の主である黄瀬だ。金糸のように眩い髪はふわりと靡く度に周囲の者を魅了する。赤子顔負けの白く美しい肌は一度触れれば病み付きになる程手触りが良い。そんな黄瀬は身長一九〇近い正真正銘の男である。
 窓枠に腰を下ろし外を眺める姿はとても画になる。長い睫毛が幾度目かの瞬きをした時、部屋の扉が勢い良く開いた。
「涼ちゃーん! 元気ーっ?」
「和君!」
 真ん中分けの漆黒の髪に吊り気味の目を持つ彼は和君こと高尾和成だ。腰に差したサーベルを鞘ごとベルトから抜き取れば近くの壁に立てかけた。
「また外見てんの?」
「まあ。他にする事無いんで。ってか、お帰りなさい」
「おー、ただいまー」
 高尾は今まで北の方で起こっていた紛争に駆り出されていたのだ。
 彼らのいる豪奢な造りの建物は一国の城と遜色ない。周りを囲う城壁も上から見ても分かるほどに高く立派な造りだ。
 けれどもこの城壁に囲まれた内側の世界は城壁の外からは隔絶されている。何故ならば此処はこの土地一体が一つの国のようなものなのだ。厳密には国ではないが。
 城内に住む人間は皆軍人で、相当な力を持つ。階級が上であればあるほど住む部屋の階が高くなるのだ。そして黄瀬が居る部屋は城壁の向こう側が見える程であるからそれなりの高さであることが窺い知れる。
「涼ちゃんはお高いからな〜。なっかなか外に出らんないっしょ」
「和君だって値段張るのに……」
 この城は言わば《軍人派遣会社》と言った所だ。軍人要請と言う名の依頼を受けてそれに見合った人物を各国へ派遣する。提示額またはそれ以上の金を積めば指定することも可能である。
 そんな中、高尾は視野の広さと戦闘技術を買われて度々お呼びが掛かる。一方で黄瀬は滅多に声が掛かる事は無かった。もう何年もこの城壁の向こうへ行っていない。
「それでも、涼ちゃんは唯一のヴァルキュリアだかんなー。仕方ねーじゃん」
「オレ、男なんスけど」
 ムスっと唇を尖らせて拗ねる様は非常に愛らしい。
 誰が付けたのかは知らないが、黄瀬の戦う姿やその普段の立ち居振る舞いからいつの間にか付いた異名だ。
「っても実際涼ちゃんにも依頼はあるんだって真ちゃん言ってたぜ?」
「は? じゃあ何でオレの所まで来ないんスか!?」
 初耳だと目を見開く。
「上の奴らってかキセキの連中も慎重になってんだよ。あんな事があったから。大事なんだよ、涼ちゃんがさ」
「……っ」
 宥めるように落ち着いたトーンで話せば黄瀬もその意図を感じ取ったのか口を噤んだ。
 あんな事、とは黄瀬が事実上軟禁状態に置かれている切欠となった出来事である。
 それは数年前、まだ黄瀬が依頼を受けて戦場に赴いていた頃の話だ。長期に渡る戦を勝利と言う形で終止符を打った東軍は祝杯をあげていた。お酒に弱い分けではないがカクテルのような甘いお酒を好む黄瀬にとって与えられた杯は一杯で酒が回るに充分な強さを持っている。
 案の定場の空気に呑まれそして飲まされ酔わされ、いつの間にか意識を手放していた。しかし目を覚ました時、同時に不自然な痛みを感じる。そのお陰ですっかり酔いは覚めてしまったのだが目の前の光景を理解するのに酷く時間が掛かった。
 力を貸した軍の大将にあろうことか犯されているのだ。相手はまだ酔っているのか獣のように乱暴に揺すられる。
 幾ら力では格下とは言え相手も同じ軍人。鍛えた身体で上からのし掛かられてはどうすることも出来ない。挙げ句腕を左右から押さえつけられている事に気付くと喉奥に張り付くようなナニかと口内に広がる苦味を感じた。そこでこの行為が随分前から行われていたのだと悟る。
 結局宴会場から姿が見えなくなった黄瀬を探していた福井と若松――黄瀬と共に派遣された――が見付けるまでの間、ひたすら慰み者にされ続けていた。
「――だからって、もう、同じ事は……」
「涼ちゃん。みんなあの時の事、まだ後悔してんのよ」
「何で」
「涼ちゃんの事が大好きだから、大事だから」
「オレは別に」
「涼ちゃん」
 ムキになる黄瀬の手を高尾が優しく握る。真っ直ぐな視線を向け、それだけで口を閉じさせた。
「オレもね、すっげー悔しいわけ」
「和君?」
「あの時のオレはまだ中層辺りに居たからさ。実践経験も、浅いしとてもじゃねーけど涼ちゃんと肩並べて戦うなんて不可能だったんだわ」
「……」
 其処で言葉を切り、片方の白い手をそっと掬い上げる。
「けど、もう今はこうして涼ちゃんの部屋に行けるくらいには上層部の中でも強くなったし実践経験も豊富」
「ここ数年、かなり頑張ってたっスもんね」
「だからさ」
 手の甲にキスを一つ落として顔を上げる。そしてパチッと片目を瞑って笑った。
「今度は戦場では涼ちゃんの背中を、プライベートでは涼ちゃん自身をオレに守らせてよ」
「……和君……」
 ぶわわっと白磁の肌が紅を差したように染まる。
 返事は唇がいいな、と冗談半分に言うつもりだった言葉は、窓枠から降りた金色のドアップによって最後まで紡がれることは無かった。



【黄瀬が愛されてる! もう、姫的な!】
事前にお知らせ致しました通り、CP指定が複数ございましたので此方の独断で選ばせていただきました。
『姫的な!』→じゃあもう姫でいいじゃなーいっ!と言うことで戦乙女になってもらいました。黄瀬ならテンプテーションとか使えるかも知れませんね。
ちょっと書いていて何故R15のような温い表現が入ってしまったのか私も謎です。おかしい。
黄瀬の件以来高尾が超頑張ってたり、キセキが黄瀬の依頼を肩代わりしてたりすればいいです。それを知った黄瀬がキセキにまず理由はどうあれ同じキセキなのに黙っていた事について言及して散々文句も不満も吐き出した後に「でも、ありがとうございます」ってポツリと呟いてくれたらキセキも私もテンションが上がります。そして「これからは和君と組むんで安心して仕事回してくださいっス!」ってキラキラ笑って言われたらクラッとくると同時に高尾ギリィなキセキとかください。優越感に浸る高尾。口下手やら無口やら素直じゃないやらって損だよねプススーと笑っていればいいです。
リクエストありがとうございました。


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