笠黄


「セーンパイっ」
「んー?」
 午後練の休憩中、笠松は部室から持ってきたらしい雑誌を読んでいた。すると後ろからのし、とのしかかるように黄瀬が抱き付きながら話し掛ける。
「何読んでんスか?」
「今月の月バス」
「あ、オレも見たいっス」
「一緒に見るか?」
 笠松の申し出に黄瀬の表情は忽ち明るくなる。ブンブンと大きく振られた犬の尻尾が見えた気さえする。
 こうして二人は体勢を変えることなく、――寧ろより密着し笠松の肩に顎を乗せた黄瀬により互いの顔も至近距離の隣同士である――雑誌に見入った。
「あ、このボール可愛い!」
「子供サイズじゃねーか。お前が持ったら多分ハンドボールかドッジボールに見えるな」
「えーっ。これ公式サイズとか無いんスかね」
「子供用らしいからなあ。だからこんなデザインなんだろうけど」
「うぅー……可愛いのにぃ」
 残念そうに柳眉を下げる黄瀬にチラリと視線をやりながら笠松が口を開く。ついでにポンポンと軽く頭を叩いていた。
「比べる対象が違うにしろ、お前の方が可愛いんだからオレは別に要らねーよ」
 素面でしかも本気で言っている辺り流石海常の男前と称されるだけのことはある。近くに居た部員達の方が照れていた。
 照れもせずにこれが言えて何故女子と碌に話せないのかが森山には不思議でならない。
「あ、そのバッシュ。最近CMしてたやつっスよね」
「どれ?」
「これっス」
 今まで笠松の首に緩く巻き付いていた腕の片方が解け、ページの一ヶ所を指す。真っ黒な素材でスポーツブランドのロゴが入ったそれは真っ青なボディに真っ白な靴紐の組み合わせだった。
「海常カラーっスね!」
 試合で着るユニフォームを思い出しながら楽しげに笑う。
「じゃあこのバッシュも黄瀬に似合うかもな」
「え?」
「お前、海常のユニフォーム似合ってるし」
 ニヤリと笑う。対して黄瀬はぶわわっと頬を朱で染めた。
 背中越しに黄瀬の心音を感じている筈だから気付いていない訳がない。明らかにリズムが速くなったそれに。
 けれども笠松は特にこれといった反応が無い。
「あ、でも」
 と言葉を続ける。そして海常カラーのバッシュを指差す黄瀬の手の上に自らのそれを重ねる。その際「んっ」と黄瀬が小さく声を漏らし、ピクンと僅かに反応したものの意に介した様子もなく横移動させた。
「こっちの方は黄瀬カラーって感じがしてオレは好き」
 其処には真っ青なブランドロゴに黄色のボディ、靴紐はオレンジ色をしているバッシュの写真が載っていた。カタログページの中で一際目を引くそれは将に黄瀬のようだ。
 まるで磁石のように休憩時間になればくっ付く二人を誰も邪魔することはない。厳密には《出来ない》が正しいだろう。
 こんな二人もコートに立てば頼りになる主将とエースなのだから人とは不思議なものである。
 休憩時間はまだ始まったばかりだ。残り八分、現状維持かはたまた進展ありかはこの時はまだ誰も分からない。
 ただ一つ、確実に言えることは部活終了後は絶対に進展ありだな、と熱を帯び色っぽい表情の黄瀬を目の当たりにした森山は一人結論付けた。



【部活中に無意識にイチャイチャ】
イチャイチャ<ベタベタな気がしてなりません。
バスケット関係のマガジンはどんなものが載っているのかさっぱりですがカタログページはあるかなーと捏造しました。
私はスポーツマガジンだとプロサッカーと高校野球系統しか読んだことが無いので…。

>こんにちは。お祝いのお言葉ありがとうございます。その様に仰有って頂けて嬉しいやら恥ずかしいやらですが、大変光栄です!これからも皆様に愛して頂けるような作品を作れるよう頑張ります。
リクエストありがとうございました。


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