高黄


 ひょんなきっかけでオレはキセキの世代としてもモデルとしても有名なイケメンとお近付きになった。それは本当に偶然で、今まで面識はあったにせよこうして共に遊ぶ程親交を深める事が出来るなんて夢にも思わない。
 当然彼と仲良くなった日には真ちゃんと黒子に自慢のメールを送ってやった。反応はまあ予想通り。
 そしてオフが重なった今日、もう何度目か分からない二人きりの休日を過ごすことになった。場所は、オレの家。しかも一泊の予定だ。
「お、お邪魔します……」
「ドーゾ。悪いねー。狭いっしょ?」
 緊張しているのがひしひしと伝わってくる。可愛いけど。
 オレの問いにぶんぶんと頭を横に振って意思表示する様はどう見ても大型犬が濡れた時にぷるぷると震わせるあれだ。つまりは可愛い。
 そもそも一九〇近い男に言う言葉ではないのは承知だが、あの日彼の気を許した感じの笑顔を見たら可愛いとしか思えなくなったのだから仕方がない。
「あ、今日母さん妹ちゃんの授業参観で居ねーんだわ」
 平日の金曜日の夕方、普段はリビングに居る母さんも今日は暫く留守だ。恐らく妹ちゃんと帰って来ると思う。
 事前にちゃんと「友達が泊まりに来る」と伝えてあるからそこら辺は心配無い。ただ、アノ《キセリョ》だとは言ってないのできっと驚くだろう。特に妹ちゃん。
 自室に案内すれば物珍しそうに見るものだから何かちょっとだけ恥ずかしい。
「イケメンの部屋とあんま比べんなよ?」
「オレ、友達のお家にお泊まりってしたこと無いんス」
「へっ? マジ?」
「うん。和君が初めてっス」
 こくんと小さく頷くなりまたふにゃりと笑う。この笑顔を見せられるとどうも弱い。けれどこの笑顔にはきっと照れも隠れているのだろう。
 オレが「黄瀬君」から「涼ちゃん」に変わったと同時に彼も「高尾君」から「和君」に呼び名を変えてくれたのはまだ最近のことだ。真ちゃんみたいに呼んでくんないんだなーってちょっと落胆していたけれど、
「か、和君は確かにプレイヤーとしても尊敬してるんすけど、でも、それ以前にちゃんと友達として……って言うか、その……」
 と、目元を赤らめて言うものだからオレは取り敢えず歓喜と優越感と眼前の天使の可愛さに抱き締めてやった。その時も戸惑っていたけれど、どこか嬉し恥ずかしな雰囲気で笑うから益々強く抱き締めた。
「んじゃオレが色んなハジメテを経験させてやるよ」
「和君」
「ん?」
「オレほんと和君好きっス!」
「ぶはっ! サンキュー。でもオレは涼ちゃんのこと大好きだぜーっ」
 突然の告白に思わず吹き出す。だからオレも調子に乗って告白した。それもちょっとグレードアップして。
 そしたら負けず嫌いなのか「オレはもっと好きっスよ!」なんて言ってくるもんだから抱き締めていっぱい頭を撫でてやる。そうすれば嬉しそうに笑うのを知り合ってまだ短い時間の中で知った。
「今度それ、真ちゃん達の前で言ってよ」
「うん? 分かったっス」
 やる意味を理解していないらしいが頷いてくれた。
 警戒心の強い涼ちゃんが意味も分からないお願いを聞くなんてこれはもう距離がぐぐっと近付いたと思っていいよな?
 それからは二人でバスケ話に花を咲かせたりゲームしたりで時間を潰した。いつの間にか母さん達も帰って来てて「友達の黄瀬君でーす」何て言って涼ちゃんを紹介する。案の定妹ちゃんフリーズしちゃった。稀に見るポカーンとした間抜け顔だ。母さんもその反応がツボったのかオレと同様、プルプルしながら必死に笑いを堪えていた。
 涼ちゃんは相変わらず微笑みすら眩しくて――だけどちょっと困惑気味だった――、妹ちゃんに頑張って話し掛けている。「えと、あれ? 大丈夫? え、あれっ?」って頭上にクエスチョンマークを飛ばす涼ちゃんは可愛い。本当に、可愛い。
 復活した妹ちゃんに尊敬の眼差しで見られたらもう兄としては嬉しいわけだ。ありがとう涼ちゃん。妹ちゃんの相手もしてくれてありがとう。
 相変わらず見た目に反した礼儀正しさと謙虚さにオレの親もすっかり涼ちゃんを気に入ったらしい。「雑誌で見る印象と違うのね」ってそりゃ当然だ。でも厳密に言えば相当違うけどね。クールだとか爽やかだとか確かにそうだけど、でも根っこは熱くて良く笑うんだって事、知っているのは極僅かでいい。これはちょっとした独占欲の片鱗かもしれないけれど。
 夕飯もお風呂も済ませた後が実はオレの一番の楽しみだったりする。
「じゃーん! これ、衣装さんから貰って来ちゃったっス!」
「うおおっ! マジで!? つかパジャマとかすげー久々なんだけどっ」
 普段ジャージやスウェットで寝る。それは涼ちゃんも同じらしい。けど折角泊まるんだから雰囲気だけでもパジャマパーティーしたいよなってマジバでお泊まり計画を話し合っていた時に冗談半分で出したら乗っかってくれたのが始まり。正直、モデルにそう言うの無理かなーなんて思っていたから驚いた。
 けど問題が一つ。オレも涼ちゃんもパジャマを持っていないと言うこと。わざわざ買うのもなーって思っていたら即行知り合いの衣装さんに電話を掛けてくれたのだ。その時は貸してくれると言う話だったが、どういうわけかくれたらしい。
「でも条件付だったんス」
「え、何?」
 久々のパジャマに袖を通す。何だかテンションが上がるのは久し振りだからだろうか。
 シュンと項垂れる涼ちゃんの頭上と臀部に力無く垂れた耳と尻尾が見える。勿論錯覚だ。
 大凡勝手に条件飲んじゃって申し訳無いとでも思っているのだろう。オレは一向に構わないのに。
「パジャマ姿写メってねって……」
「ぶはっ!! そんなんでいいの? いーじゃんいーじゃんっ、撮ろうぜ! どうせオレも撮るつもりだったし」
 いそいそと制服のポケットから携帯を取り出していると腰辺りにドンッと鈍い衝撃があった。驚いてそこを見たオレは思わず息を呑んだ。
 だってしょうがない。
 嬉しそうに目を細めて笑いながら膝立ちでオレの腰にしがみついて「ありがとう、和君」なんて言うんだ。エフェクトが掛かったんじゃないかと思った。勿論錯覚だ。
 そして半思考停止の状態で見事パシャリとそれを収めることに成功した。
「む。和君フライングっスよ!」
 なんて膨れる涼ちゃんの破壊力と言ったら無い。挙げ句膝立ちだから普段見上げる側のオレが見下ろす側だ。上目遣いの破壊力を身を以て思い知った瞬間だったのは言うまでもない。
「どうせだからベッドで撮ろうぜ!」
「わーいっ!」
 高校生とは言え成人男性並の体格である男二人が揃って乗るものだからいつも以上にスプリングが鳴る。あ、何かエロいと思ってしまったのは隣に涼ちゃんが居るからだろうか?
 携帯のフレームからはみ出ないようにぴったりとくっつく。そして、ピロリンと言う携帯ならではの独特なシャッター音が鳴った。
 あれから何枚か撮り、今現在、涼ちゃんはオレの隣で約束通り衣装さんにメールを作成している。そしてオレも新規メールを立ち上げる。
 勿論色違いと言うだけのお揃いパジャマ――ギンガムチェック仕様――を着たオレと涼ちゃんの至近距離ツーショットの添付ファイルは忘れない。送信先は矢張りオレの相棒と誠凛の影君。存分に羨めばいい。
 それから普通に撮った楽しげに笑う涼ちゃんの写真を彼の保護者でありオレが尊敬するPGに送った。『お宅の大事なエースちゃん、一晩お預かりします』と一言添えて。
「さて、携帯の電源落として寝ますか!」
「わざわざ落とすんスか?」
「だっていっぱい喋りたいのにメールとか電話で邪魔されたくないっしょ?」
 そう言えば納得したのかプツリと直ぐに落としてくれた。矢張りそんな些細な行動すらオレは嬉しくなる。
(残念。もう、お前らだけの黄瀬涼太じゃねーよっ)
 そうしてオレも携帯の電源を落とすと共に部屋の明かりを落とした。

――明日の朝、電源を入れるのが楽しみだ。



【甘々/短編のオレは黄瀬君がいいのの続き的な感じ】
甘々……なのかこれ?いや甘々要素が少ないと言うか無いと言うかどちらかといえばほのぼの…ですよ、ね。
この高黄はまだ友達ですね。先ずは笠松さん含む海常の皆さんに認められるようにしてると思います。だって黄瀬はもう海常の生徒ですから。
キセキに対しては自慢半分反応見たさ半分だと思います。でもわざわざ認められるよう云々はしません。だって黄瀬はもう海常(ry
パジャマ着せたかったんです。お揃い夫婦パジャマ…。柄物でも無地でもこの二人は着こなすと思います。パジャマ高黄!寝間着ならぬ寝間黄。あれでもこれじゃあパジャマ緑黄みたいですね。

>こんにちは。お祝いのお言葉ありがとうございます。
当サイトの黄瀬にセラピー効果があるとは信じ難いですね。きっと黄瀬ラピー効果は元々黄瀬自身が持っているものだと思いますよ。私はそれにあやかっているだけです^^ありがたや
高黄に目覚めてくださいましたか!ありがとうございます。その様に仰有って頂けて大変光栄です。高黄増えろ!
あまりぞんざいに扱っているといつかハイスペックな人にサラッととられてしまいますよ。油断禁物です。
ありがとうございます。これからも頑張ります。
リクエストありがとうございました。


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