紫黄


 黒板に書かれた《自習》の二文字はチョークを寝かせて書いたようで太字になっている。教科担当の生徒が女子なのだろう。無意味に黄色や赤色のチョークで星やら花やらを文字の周りに散りばめていた。
 ここの所自習の日が続いている。昨日は英語、一昨日は理科でその前は英語だった。そして今日は社会である。
 この教室に居るのは中学二年生だ。自習ともなれば大人しくする筈も無い。勉学に秀でた者が集う学校ならばまだしもそうではない所は十中八九監督者が不在ならばそこは動物園と化するのが定石である。
 けれどもこのクラスは隣りで授業をしている先生が怒りを露わにして怒鳴り込んで来ると言うイベントは英語の自習の日から発生していない。私語を慎んでいるわけではないのだがそれが動物園化するまでには至らないでいた。
 その大きな理由となっているのがクラスメートの間で呼ばれている「妖精」と「天使」の存在である。
 そしてその妖精と天使は今日も今日とて机を突き合わせて課題プリントと睨めっこをしていた。口にはプレーンの細いスナック菓子にチョコレートがコーティングされている棒状のお菓子がくわえられている。因みに妖精にはミルクチョコ、天使にはストロベリーチョコである。
「ねぇ黄瀬ちん」
「なんスかー紫っち?」
「これ分かるー?」
 トン、と長い指が示した箇所はざら紙に印刷された問題文だ。一問一答形式のそれは左側に問題、右側に解答欄がある。取り敢えず解るところは適当に埋めたがそれでも空欄が目立つ。
 改めて指された問題番号を見て自分のプリントで確認する。
「いちごパンツっスね!」
「え、黄瀬ちん今日いちごパンツなの?」
 だからお菓子もいちごなの? なんて本気で訊くものだから黄瀬はきょとんとした表情になる。
 周りはと言えば、肩を震わせて笑いを堪える者や実際に黄瀬がいちごパンツを着用しているところを想像し机に突っ伏して悶える者など様々だ。しかしこの二人がそんなクラスメートの様子に気付く気配は無い。
「違うっスよ! 只の語呂合わせっス!」
「なぁんだ。因みに黄瀬ちん、今日のパンツは?」
「今日は黒っぽい紫の……って何言わせるんスか! つか朝練でもさっきの体育でも着替える時に見てるじゃないスか」
「別に黄瀬ちんのパンツ興味無いのにわざわざ見ないしー」
「じゃあ何で訊いてきたんスかっもうっ!」
 頬を染めてぷぅ、と頬を膨らませる。けれども「黄瀬ちん、あーん」の言葉に素直に開口する辺り全く怒っていないことが窺える。新たにくわえたお菓子は先程紫原が食べていたミルクチョコレートのものだ。
 ポリポリと咀嚼すれば口の中に甘い味が広がる。直後、ふにゃ、と顔を綻ばせた。その表情は甘さと美味しさにとろんと蕩け幸せな空気をその身に纏う。
「あ、じゃあオレのもあげるっス。はい、あーん」
「あー……ん」
 ポキン、ポキン。紫原の口の中で棒状のお菓子が折られる度に、いちご味のチョコレートの風味が存分に広がる。
「もしかしてこれって地域限定うまおう使用のやつ?」
「そうっス! 昨日仕事帰りにメイクさんから貰ったんスよー。他にもトチリオトメとかもあるんスよ!」
 紫っちと食べようと思って。なんて笑顔で言われてしまえばあまり表情を変えない紫原の口元も緩やかなカーブを描く。
 このまま穏やかに時間が過ぎると誰もが思っていたその時だった。
 軽やかなチャイムが終業時間を告げる。
 その直後、ハッとプリントに意識を戻した黄瀬がわたわたと慌てる目の前で紫原はのんびり解答欄に『黄瀬ちんがいちごパンツを履いた日』と記入していた。
 提出の際、「そこは本能寺の変だよ」とプリントを集めていた心優しい社会担当の女子生徒が口頭で教え事なきを得る。しかし、妖精と天使が揃いも揃って珍解答を記入していたと判明するのは二日後の社会の時間である。



【甘/帝光/学校での日常生活みたいなのをお願いします^//^】
紫黄はどうしても「あーん」をさせたくなる不思議。言葉は無くとも食べさせ合いっこをさせたくなります。
紫原と黄瀬のクラスが一番癒やしクラスですよ。森のくまさんとわんこですよ。
ポッ●ーゲームさせたいです。
二人で顔つき合わせて何かするのが通常運転だと良いなと。普通に喋るときとかもそんな感じで。初めは周りから「(お互いの顔の距離が)近い!」と思われていたけれど段々それに慣れて当たり前になればいい。首を上に傾けて見上げる黄瀬と首を下に傾け且つ上体を前に倒す紫原の図が見たいです。間にある机すら障害にならないナチュラル至近っぷり。

>こんにちは。
この度は当企画へ参加して頂きありがとうございます。
メールが送れ無かったと言う事でお手数をお掛け致しました。厳密に「これが原因」と申し上げられずすみません。
ずっと参加するか否かで迷われていらしたとか。神様ありがとうございます^^
赤黄、紫黄単体も大好きになられましたか!ありがとうございます!キセ黄や青黄と比べるととまだまだマイナー何ですよね…。
紫黄の「すれ違い」をお気に召して頂けたようで何よりです。ありがとうございます。両片想いを書きたくて書きたくて堪らなくて書いてしまったものがあれです。非常口の傍で言い争って欲しかったんです。ちょっとマニアックですかね?
リクエスト消化頑張ります!
リクエストありがとうございました。


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