キセ黄


 ある日、帝光中バスケ部一軍が使用している体育館にヒヨコが紛れ込んだ。

 それに気付いたのは紫原だった。顔を洗いに行っていた水場から戻って来た際に、誤ってそのヒヨコ――金色の髪の小さな男の子を蹴飛ばしてしまったのだ。
「あららー? 何か当たっちゃったー?」
 こてんと首を傾げながら見下ろした先には俯せに倒れている男の子。しかし後ろ姿であるから推定でしかないが。
「君、大丈夫ですか?」
「なんだぁそのガキ」
 駆け寄る黒子が抱き起こす隣で青峰もしゃがみ込みその顔を見る。
 パッチリと開いた二つの目は顔の面積からしてみたら大きい。子どもながらに長い睫毛は天然とは信じ難いが上向きである。
 青峰は日頃から鋏のような物で睫毛を弄る幼なじみを思い出し、コイツはビューラー要らずだな、と思った。
「ありがとうっス!」
 にこにこと笑った顔で発せられた声は子ども特有の高さだった。その顔も女優顔負けな程に整っており、将来は美人になるだろうと印象づける。
「君、名前は?」
「きせりょーたっス!」
「リョータねぇ……は? リョータ?」
「りょうたっス! すずしいに、ところてんのさいごのもじで、りょうたっス!」
「あ? トコロテン? お前ガキのクセに進んでんなぁ」
「青峰君は後で赤司君に絞ってもらいます」
「は!? 何でだよ!」
 黒子も青峰も、目の前の子どもが短パンを履いているとは言えまさか同性だとは思わなかったらしい。その驚きの声に何だ何だと練習を中断した部員によるギャラリーが出来上がる。
 説明の仕方が少しややこしい彼は青峰の言葉の真意を知ることなく、相変わらずにこにこと笑っている。
「お前達、何をしているのだよ」
「お前達もだ。誰が練習を中断しろと言った?」
 呆れ顔で近付いてくるのはこの部内の頭脳派である。内一人は主将としてギャラリーと化していた部員を一言で散らせている。
「あ、赤ちんとミドチン」
「何かよぉ、どっかから紛れ込んだらしーわ」
「紫原君に蹴飛ばされてました」
「だってーちっちゃ過ぎて気付かなかったしー。ごめんねー?」
 目の高さを合わせようとしゃがむも俄然紫原の方が高かった。結局お互い首を傾ける事になるがそれでも立って話すよりは首に優しい。
「オレ、なれてるからへーきっスよ!」
 彼の言葉で眉間に皺を寄せたのは矢張り頭脳派の二人であった。
「涼太と言ったか」
「はいっス!」
「どうやって入った」
 赤司の質問に、うーんと頭を傾げる。唇を尖らせているがこれはどうやら考え中の仕草らしい。
「はしってたらはいったっス!」
「そう言うこっちゃないのだよ」
 間髪入れずに緑間の的確なツッコミが入る。けれども本人はどうやら精一杯頭を使った上での答えだったらしく、困惑した表情を見せた。
「質問を変えよう。何をしていて入った?」
「……おいかけっこ」
 子ども相手でもその威圧的な態度は継続するらしい。
 やや黙った後に発した言葉は初対面でも分かる程に沈んでいた。
「鬼ごっこかよ。ガキだなー」
「虫取りに夢中な峰ちんも同じでしょ」
「んだと!?」
「違うよ」
「だよなぁ!」
「バカめ。青峰の事では無いのだよ」
「ああっ?」
「そう。青峰、彼は『追い掛けっこ』をしていたんだよ」
 赤司の意味深な物言いに黒子はハッとする。依然として青峰と紫原は揃って首を傾げていた。
「差し詰め彼は“追い掛けられっ子”と言った所かな」
 チラリと視線を向ければ不安の色に塗れた瞳とぶつかった。
「私服ってことは保育園かな。涼太、どこの保育園だ?」
「……」
 表情に影が落ちる。それだけで彼が言わんとする事が分かったのか、赤司は漸く彼の目の前にしゃがんだ。
「安心しろ。涼太は無事だと連絡を入れるだけだ。お前は我々が責任を持って家に送る」
 告げると雲に覆われた太陽が顔を出した。そう思ってしまう程に彼の笑顔は眩しかったのだ。
 それからと言うもの、夕方になると帝光の体育館には小さなヒヨコが顔を覗かせるようになった。時には自分の顔よりも大きいボールを触ったり、共にプレーしてみたりしている。その度に明るい太陽が室内を照らしてくれていた。
「涼太! 今日は俺のチームだ」
「ズルいです赤司君。昨日もそうでしたよ」
「今日はテツヤも同じだが?」
「黄瀬君一緒に頑張りましょう」
「あかしっちとくろこっちがいっしょっスか? やったぁー!」
「赤ちんも黒ちんもズルいしー」
「昨日所かここの所ずっと赤司は黄瀬を独占しているのだよ」
「ふざけんな赤司!」
「逆らうなら外周行ってこい」
 有無を言わさぬ赤司に三人は押し黙る。しかしどんなにフラストレーションが溜まろうとも結局の所、ボールを持って楽しげに笑う彼を見るとどうでも良くなってしまうのだ。
「おい黄瀬! 帰りはオレと手ェ繋げよ」
「はいっス!」
 今度は帰り道の並び順で一悶着ありそうだ。しかしそれも日常化しつつあった。



【黄瀬が先天性の幼児パロ】
ショタパロが楽しくて楽しくて。
彼らが卒業して暫く疎遠になってでも誰一人忘れたことは無くて再会とかしたらいいです。その時に誰かのものになってしまえ。誰か長編で書いてください_(:3」∠)_

>お祝いのお言葉ありがとうございます。黄瀬受けが大好きなので固定CPが私には無いのです。兎に角色んな人と絡ませたがりなのでドマイナーなものも書いてしまうんですよね。
私は京様のコメントに悶絶しております。どうしてくれる。
お気遣いありがとうございます。これからも頑張ります。
企画参加ありがとうございました。


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