ひたぎ様


 顔良しスタイル良し運動神経抜群に良し性格もまあ良し。
 訂正。
 性格は最悪だ。

「お前昨日いつまで電話してたんだよ。ずっと掛けても繋がんねーし」
「ああっスマッセン! 赤司っちから《十時から電話しろ》ってメールが入ってたんスよ」
「はあっ?」
 恋人の口からまさか元チームメートの名が出るとは思いもしない。否、東京に居る奴らならまだ分かる。しかしコイツが出した名は確か京都の筈だ。
 思わず食べかけの弁当をひっくり返す所だった。流石に屋上に落ちた弁当は拾いたくない。
「お前さあ」
「はいっス」
 何故思いもしなかったのか。本当は薄々感づいていた。只、そうであって欲しくなかっただけだ。
 何故なら――
「これでもう一週間だぞ」
「え?」
「え、じゃねーよ。一週間お前の声聴いてねーんだけど」
 赤司のせいで。
 不機嫌さを露わにして言ってみればあわあわと焦り始める。
 あーくそそんなんも可愛いとか何だこれ。これが俗に言う惚れた弱みってやつか。
「スマセッ……スマッセンっ! で、でも、俺らの中で赤司っちの言うことは絶対で優先順位が一番何スよ」
 あからさまに溜め息を吐けば黄瀬の柳眉は益々下がる。モデルがそんな情け無い顔をするなよ。
 分かっていた。否、最近になって分かったんだ。キセキの世代にとっての赤司と言う奴が如何にデカいか。
 特にコイツはキセキに依存してる。恐らく無自覚だろう。
 それだって理解はしているつもりだ。黄瀬にとったら色んな《初めて》を与えてくれた奴ら何だと思う。バスケ・勝利・チーム、多分他にも教えてくれたんだろう。そんな奴らだからこそ黄瀬は感謝も尊敬もしている。今でも過去を大事にしている。
 だけど俺にとっては只の過去にしか思えねぇわけで、だからこうして苛つくんだ。
「いい加減キセキ離れしろよ」
 なんて、まだ言えない俺は自分で自分の順位を下げている。結局俺自身、まだ黄瀬の中に居るキセキと張り合う自信が無いんだ。
「センパイ……怒ってるっスか?」
 溜め息を吐いたきり一言も喋らない俺に不安を感じたのか、今にも泣きそうな瞳で覗き込んできた。その顔は反則だろ。
「別に」
「嘘」
「は? 嘘じゃねーよ」
「嘘っス! だって笠松センパイ、イライラしてる時はいつも頬杖つく時の掌が口を覆うんスもん」
「は……?」
 やっぱ気付いて無かったんスね。
 そう言って黄瀬は笑った。悲しいとも寂しいとも嬉しいとも呆れとも取れる顔をしている。正直、今の俺にはどの感情が当てはまるのかさっぱり分からない。
 いつも分かり易い癖に偶に分かり難い事がある。だけどその分かり難さを出している時がいつだってコイツの本音だった。
「俺、伊達にセンパイの事見てないっスよ」
「バカかお前」
 知らなかったよ。そんな癖なんか。
 ブルブル震える携帯を慣れた手付きで操作する黄瀬が今は悔しいくらい愛おしい。
「あ」
「んだよ」
「赤司っちが今日も電話しろって」
 前言撤回。
 黄瀬は顔良しスタイル良し運動神経抜群に良し。
「今日は、なるべく早めに終わらせ」
「いーよ、別に」
「え……」
 んな傷付いた顔すんなよ。
「今日は電話するつもりねーし」
「あ、の……」
 泣くの我慢してる顔も好きだ。でもやっぱり。
「明日は午後練だしな。今日お前の家泊まるからお前の電話中はお前を好きにさせてもらう」
「へ、え……えっ?」
「返事」
「はい……ス」
「よしっ」
 ご褒美と言わんばかりに唇にキスを落とす。学校に居る時で俺からはやったことなんか無かったけど。それでも、今日は何となく無性に黄瀬の唇に触れたかった。
 離れれば段々真っ赤になっていく顔に何だかこっちまで照れてくる。だけど黄瀬の場合はそれだけでは終わらない。
 赤くなりながらも俺だけに見せる俺だけの笑顔がその先に必ずあった。これに免じてもう少しだけキセキに依存する事を許してやるよ。
 その笑顔だけは誰にも見せんなよ。
 そう囁いてもう一度だけ唇を重ねた。
 やっぱり、お前には笑った顔が一番似合う。

 性格は――人を信じないが人懐っこい。認めた奴には甘くてお人好し。信じた奴には《特別》を見せる。
 総合して、厄介。だけどそこがイイ。

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