高黄


 とある休日の午後一時。一組の男性客が丁度昼時で賑わう店内で昼食を摂っていた。
 どちらも高身長ではあるものの、椅子に座ってしまえば特別高いと言う印象は受けない。しかし向かい合って座る彼らの顔立ちは非常に周りの客の目を惹いた。
 それもその筈である。通路側に座る男は、男にしてはやや長い部類に入るであろう黒髪が艶艶とした印象を受ける。それは店内の照明によって美しい天使の輪を作りだしていた。更に細く切れ長の吊り目であるのにも拘わらず、彼が今張り付けている表情は≪かわいい≫と形容するに値する。まるで猫が楽しそうに兄弟猫にじゃれつくそれに似ていた。
 そしてもう片方――壁側に座る男は、遠目から見ても分かる程手入れの行き届いた如何にも指通りの良さそうな金糸を纏っている。照明の光を反射してキラキラと輝いていると言っても過言ではない。何より長さを強調するかのように組まれた脚が生み出す脚線美はジーンズの上からでも良く分かった。更に男にしては長い睫毛と大きな双眸は婉曲し、弧を描いている様は将に飼い主を前に楽しそうにしている犬のようである。対面している黒髪の彼と容姿以外で大きく違う所を挙げるとするならば、彼は学生の傍らモデルをしていると言う事だろう。
 そして彼らに共通するのはキレイな顔立ちであるが笑うと可愛くなる事だ。
 斯くしてちらちらと視線を浴びている高尾と黄瀬であるが話に夢中なのか一切気付く様子も無い。それ所か会話に花が咲いているようで一際楽しそうに笑っている。

「そうそう、こないだはサンキュー」
「別にいいっスよ、それくらい。で? 使ってみた感想は?」
「流石現役モデルが使ってるシャンプーって感じ!」
「ぶはっ! 何スかそれぇー」
「だって使ったその日からあれ何か違うって思ったもん。びっくりするくらい寝癖がマシになった! コレマジ感動したね!」
「それは良かったっス。で? 緑間っちの反応は?」

 黄瀬がニコニコした笑みにニヤニヤを織り交ぜながら高尾を見つめると、うっと頬を染めながら言葉に詰まる。それを見た黄瀬は、なるほど効果はあったなと断定にも近い推測をすると一層ニヤニヤの比率を上げてきた。

「緑間っちの好みの匂いだったっしょ?」
「そうなんだけど……そう、なんだけど……」

 もごもごと口籠る高尾の目元はぽわぽわと朱に染まる。
「真ちゃんも気に言ってくれた、のは、良いんだけど。良いんだけどさ、その……匂い嗅ぎ過ぎって言うか……」
「あ、何となく分かったっス。緑間っちムッツリだからガッツいたりしない代わりに一つの行動が結構しつこいんスね?」
「つい最近もさ、真ちゃんちに遊びに行ったんだけど……。こう、後ろから抱き締められてさ、最初後頭部に鼻くっ付けてそっから段々項とか肩とか首とかに移って来て……もう、そんだけでオレ心臓バックバクで。だってさ、良く考えてみろよ。真ちゃんのあの顔が超至近距離にあるんだぜ? もう、オレマジ心臓破裂する……」

 まるでプシューッと音を立てて湯気を放ちながら沸騰した事を知らせる薬缶のようだと思った。パスタがキレイに盛られた皿をフォークで突きながら語るのは恥ずかしさを少しでも和らげる為である。

「でも良い刺激にはなったんじゃないスか?」
「そーだけどーっ!」

 でも同時に恥ずかしさが増した気がするーっ! と体内の熱を冷やす様にグラスに注がれた水を一気に呷る。

「っぷはー!」
「ちょ、和成クン良い飲みっぷり過ぎて惚れそうっス」
「オレに惚れると火傷するぜ?」
「ぶはっ! それ今言うとマジで洒落になんないっスね!」
「うるせーっ!」

 唇を尖らせ拗ねた表情をするも未だに熱を持った顔では大した効果は得られない。
 自分ばかりがこんな思いをするのも何だか癪である。スポーツマンである以上、やられっ放しでは割に合わない。やられたらやり返す。それが礼儀と言うものだろう。勿論、それ同等若しくはそれ以上に、だ。
 それでなくても今回は高尾と黄瀬の月一で行うデートなのだ。互いの近況報告や情報を交換する、そして場合によっては相談事を持ち掛ける大事な日なのだから高尾が喋らされたと言うならば自ずと次が決まる。
 フォークに巻き付けたパスタをまるで指し棒のように扱って黄瀬にそれを向ける。今度は高尾がニヤリと口角を上げる番だ。

「それじゃあ、涼ちゃんはどーなんだよ? ん? ホラホラ〜」
「うー……和成クン、ちょっと目が怖いっス……」

 彼らの恋愛トークはまだまだ続くと、追加注文がそれを物語っていた。



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