紫黄


(コレと続いてたりいなかったり)

 校内一の長身である紫原と校内一の美人であると謳われる黄瀬が交際を始めたと言う噂は瞬く間に広まった。勿論噂ではなく事実であるから否定も誤魔化しも出来ない。
 ただ、結婚を前提としたお付き合いであると言うことまで知っているのは告白現場に居た赤司、黒子、青峰、緑間の四人だけである。
 学生の傍らモデルもこなす黄瀬は抜群のスタイルを持つ反面、女子にしては長身と言うのが彼女のコンプレックスでもあった。しかし紫原が隣に立つ事でそれは完全にストロングポイントとなっている。
 大変画になる二人と周りの評判も良いらしい。

「はい、桃っち」
「うわぁっ! ありがとうきーちゃん!」
「何だそれ」
「あ、ちょっと! 青峰君っ!」

 食堂で向かい合って座る桃井に黄瀬は一冊のムックの入った袋を手渡した。
 桃井の右隣に座る青峰は彼女の手の中から素早くそれを横取りするなり中身を取り出す。しかし表紙を見て中途半端にムックを出したまま桃井に返した。

「グラビアじゃねーのかよ」
「青峰君じゃないんだから。大体女の子がグラビア見たって面白くないじゃない」
「綺麗なウェディングドレスですね」
「テテテテテツ君っ!!」

 トレイに昼食を乗せた黒子が桃井の左隣に腰掛ける。突然現れた意中の相手に桃井の心臓はこれまでに無い程大きく脈を打っていた。
 それとほぼ同時に黄瀬の右側に紫原、左側に緑間が腰掛ける。黒子同様にトレイを持っていた。彼と違う所と言えば、トレイに乗っている品数だろう。
 最後に、何故かメニューには無い湯豆腐をトレイに乗せた赤司が桃井と黄瀬の列を一度に見渡せる所謂お誕生日席へと腰を下ろす。

「先月、モデルの先輩がブライダル雑誌の撮影をしたからその時の写真を簡単に纏めてもらったんス。私が雑誌発売まで待てなくて見たいってずーっと駄々こねてたら特別にそこの担当編集者さんが作ってくれたんスよ! 載ってるのは全部没写真なんスけどね」

 女子中学生が興味を持つのも分かるが、しかし雑誌を購入するには早過ぎると思ったのだろう。物好きな編集者は黄瀬の為にわざわざ作ってくれたらしい。何でも、若い頃に自ら本を作った経験があると言う。どんな物を作ったのか詳しい内容は聞いていないが。因みにこの編集者は女性である。
 桃井は皆が見えるよう机上にそれを広げる。
 ページの写真は没とは思えぬ出来だ。素人目からしてみればどこに没になる要因があるのかさっぱり分からない。

「後半のドレスはお色直しにオススメらしいっス」
「わあっ! このワインレッドのドレス素敵っ。あ、でもこっちの花柄も捨てがたいなぁ」
「定番のAラインもいいんスけど、マーメイドも綺麗なんスよねー。でも一番はやっぱり自分の体型に見合った物を着ることっス!」

 きゃいきゃい騒ぐ女性陣に当然ながら男性陣は置いてきぼりを食らっている。
 しかしここで赤司がふと疑問に思ったことを口にした。

「所で、黄瀬はどれが着たいんだ? 丁度伴侶も居ることだしな」

 赤司の言葉に皆が一斉に黄瀬と紫原を見る。
 その言葉と視線に黄瀬は熱が顔に集まるのが分かった。

「んー。オレは何でもいーや」
「本人を前にして随分と適当な答えなのだよ」
「適当って言うかぁー、黄瀬ちん、何着ても似合っちゃうしー。だったら黄瀬ちんが一番着たいやつ着て欲しーじゃん? オレは隣に黄瀬ちんが居てくれたらそれでいーし」

 そう言って黙々とまた昼食を頬張った。

「サラッと惚気られたのだよ」
「流石ですね、紫原君」
「これがテンパって交際を申込むより先にプロポーズした男の余裕かな」
「ムッ君てば本当にきーちゃんが大好きだね」

 緑間が溜め息混じりに眼鏡のブリッジを押し上げ紫原を見やる。
 黒子は目の前に座り大盛のご飯を着実に減らして行く彼を感心した様子で見ていた。
 赤司も頭一つ分以上飛び出している彼の横顔を見ては、色んな手順をすっ飛ばした告白の日を思い出し、自然と唇が弧を描く。
 桃井はただ単純に微笑ましく、そして基本何事も興味も無くやる気の無い彼が黄瀬の事に関してはしっかりと意見を持っている事を喜ばしく感じていた。
 そして、青峰はと言えば……。

(あー、なるほどねー)

 皆が紫原に意識を向けている中、これらの話題に一切興味を持たなかった青峰だからこそ見られたのだろう。
 色っぽく頬を紅潮させ、ムックのとあるページをただただ凝視する黄瀬の姿を見たのは彼だけだ。

(紫のドレス、ねぇ……)

 まあ、似合うんじゃねーのと思ったのと同時にその色には見覚えがあった。
 紫原のぶっ飛んだ告白を嬉しそうに噛み締めていたあの日に見た黄瀬の下着の色だと思い出した所で言える筈もない。
 そうして彼もまた食事に意識を戻した。



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