高黄


 待った? ううん。全然。今来た所。
 なんて会話はカップルの定番とも言える。所謂ベタな言葉のキャッチボールだ。
 それを今、待ち合わせの休日で賑わう公園内の噴水前でサラリと行われた。因みに双方男性である。
 それでも違和感が全く無いのは、その見るからに明るい人柄と滲み出るイケメンのオーラのお陰だろう。

「ごめんね、和君。昨日部活だったんスよね? 疲れてないスか?」
「へーきへーき! 練習キツいのなんてお互い様だし、そんくらいでへばってちゃ真ちゃんに笑われっから。涼ちゃんこそ大丈夫?」
「うん! 今日は軽い調整だけだったんスよ」

 天気は快晴で絶好のお出掛け日和だ。
 そう思っていたのは彼らだけではないらしい。子連れの夫婦やカップルであろう若い男女、また仲良く散歩の途中なのか老夫婦も舗装された道をゆっくりと歩いていた。
 男二人でこの公園に居るのはどうやら黄瀬達だけのようだが、しかし彼らはそんな事を気にする様子もない。

「あ、和君今日はカチューシャしてるんすね!」
「おっ、気付いた? さっすが涼ちゃん。真ちゃん達とは大違い」
「えー、気付くっしょ? フツー」
「それがねぇ、それがさぁ!」

 ちょっと聞いてよっ!
 と、半泣きのようなご立腹のような顔で高尾が話を振る。

「この間もさ、オレ、カチューシャしてたわけ。で、いつもはこの赤いやつなんだけど、その日は黄色だったわけ。なのに真ちゃんってば全然気付いてくんないの!」

 黒髪に黄色だぜ? 気付くだろフツー!
 噴水の水をぱしゃぱしゃと音を立てながら意味もなくかき混ぜる。

「んで、部活の時に着替えてる時にさ、『真ちゃんっ、今日のオレはいつもと違うっしょ?』って自分から振ってやったんだよ。そしたら何て言ったと思う!?」
「んー……『知らん』とかっスか?」

 中学時代もそう言えば前髪を黒いピンで留めていた時、高尾と似たような事を言ったなぁと思い出す。その際言われた言葉が先程黄瀬が答えとして紡いだ言葉だ。
 しかしどうやら違うらしい。「確かにそれも真ちゃんらしいけどー」と言って首を横に振った。

「黙ってじっと見つめてきて長考したかと思えばさ『額が広くなったような気がするのだよ。もう禿げてきたのか?』だぜ!? 流石にねーよっ!」

 口調はお怒りのようだがしかしその顔は笑っている。濡らした手を宙で振れば、キラキラと輝きながら弾かれた雫が噴水の中に落ちる。

「ふっ……ふふっ、緑間っち……ふふっ……さ、流石に禿げは、ないっ、……ふはっ」

 お腹を押さえ肩を震わせながら必死に言葉を紡ぎ出すも最後の最後で吹き出してしまった。だからお前はダメなのだよ、と仏頂面で言う緑間が脳裏を過ぎり、益々ツボに嵌ってしまう。
 その横では、高尾が続きを話していた。
 部室には主将の大坪やレギュラーの宮地らも居たらしい。緑間の言葉だけを拾った彼らは本気で高尾の髪の毛の心配をして来たと言うのだ。
 王者と呼ばれた秀徳レギュラーが揃いも揃って後輩の若禿の心配とは。それがまた黄瀬のツボを擽ったらしい。

「若布食えとか海藻が髪には良いとかさぁ! 心配してくれんのは有り難いけどだからってさー、こんなフサフサなのにどこを禿と呼ぶ!?」
「秀徳って結構フレンドリーなんスね! 何かもっとクールな集団かと思ってたっス」

 声を震わせているのは勿論寒いからでもこわいからでもない。笑いから来たものだ。
 うっすらと目尻に浮かぶ涙は笑いすぎた証である。長い睫毛を濡らし色気が増したのは恐らく勘違いではないだろう。

「今日は赤色なんスね」
「おーよ! 妹ちゃんから貰ったんだぜ? かわいーっしょ!」
「和君妹居たんスか? あー、何か和君がお兄ちゃんだったらマジ自慢っスわ」
「えーっ、マジで? 何か照れるわー」

 待ち合わせ時間からかれこれ一五分が経過していた事に彼らはまだ気付いていない。
 きっと気付いたとしても対して慌てることもしないのだろう。
 先程と同じように笑い合って、公園を後にするまでもう少し時間が掛かりそうだ。



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