火黄


 家に帰って来たらテーブル一杯に御馳走が並んでいた。何だこれどうしたと言う言葉すら言わせてもらえないくらいには凄い。

「火神っち! お帰りなさいっス!」

 リビングに入った途端にオレはドサッと荷物を床に落とした。それを疲れているからとかって捉えたらしい恋人は「今日もお疲れ様」とニコニコしながらオレの前まで来る。落ちた荷物を両手で持てば邪魔にならないよう脇に寄せる。

「さっ、食べちゃお!」
「おま、これ……」

 呆然としながらもオレの足は確かにテーブルへと近付いている。まるで其処にいる黄瀬に引き寄せられるかのように。

「凄い? 凄い? 驚いた?」
「ああ、スゲーよ」
「やったぁ! 結構頑張ったんスよ〜」

 春休みに入った頃から料理を教えろと言ってきたコイツに当時は疑問しか無かった。理由を訊いても「料理の出来る男子はモテるんスよ!」とお前これ以上イケメンになってどーするよと思ったものだ。
 春よか随分上達したなと褒めれば、えへへと照れ笑いしながら大人しく頭を撫でられている。

「この日のために間に合わせたんスよ!」

 何て可愛い顔で言われてしまうと飯よりお前になりそうになるのをぐっと堪えた。

「去年は……さ、知らなかったし。祝えなかったし。って言うかインハイで余裕無かったし」
「今年は余裕あったってか?」
「時間的に余裕は全然ないっスよ? でも、ちゃんと祝えるんだって思ったらやっぱりどっか嬉しくて」

 俯いても耳が赤いからどんな顔をしているかくらいの想像は容易い。
 恥ずかしさを紛らわす為に「さっ、食べよ!」なんて言ってくるのにもいちいちオレは小さな幸せを感じていた。
 好きな奴と一緒に特別な日を過ごす事がこんなに満たされる気持ちになるのならば、黄瀬がいちいち把握している季節のイベント事も偶にはいいかな、なんて思えてくるから不思議だ。
 オレと黄瀬は隣に座りながら御馳走を目の前にして食前の挨拶をするために掌を合わせた。
 口を開けば一瞬左隣が早かったらしい。噸でもないものを投下していった。

「大我、生まれてきてくれて、ありがとう」

 蕩けそうな程に幸せを全面に出した笑顔でそんな事を言うなんて誰が予想出来ただろうか。
 目の前の御馳走か隣の御馳走か。オレはどちらを先に《いただく》べきか短時間の内に脳内処理をしなければならなかった。
 勿論、選ぶべき御馳走は――。



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