青黄


 籠の中のボールが無くなっても、その近くには籠一杯のボールが控えている。だからわざわざ拾いに行くことはしない。
 けれどもずっと打ち続ければ無くなるのは当然だ。
 ゴール下にはリングを潜って落ちていったボールが幾つも転がっている。数えるのも面倒だ。
 またシュートを打てばリングを潜ったボールはその下にあったボールに当たり、変な方向へとバウンドしながら転がって行く。
 最後の籠で最後の一つに手を伸ばせばそれは空振りに終わった。

「あれ?」

 ガン、と音を立てて落ちるボール。こんなに乱暴なシュートをするのは一人しか知らない。

「青峰っち」
「シュート練だけじゃ俺には勝てないぜ?」
「そっスけど、俺、別に青峰っちに勝つためだけに来たんじゃないっスから」
「へぇ」

 知ってるくせに。
 だから今もそうやってボールを投げたその指で俺の輪郭をなぞってる。俺が熱に浮かされるのを楽しんでる。

「じゃ、俺帰るわ」

 青峰が現れるのは決まってみんなが帰った頃――特に、俺が自主練を終わらせた頃にやって来る。まるでずっとそれを見ていたかのように現れる。
 だけどそれはまず有り得ない。そんなことをしたって青峰に何の利益ももたらさないからだ。
 それに、青峰は俺が桐皇を選んだ時から俺を見なくなったから。

「相手してくんないんスか?」
「やらねーよ。お前とやってもつまんねー」

 俺はもう諦められた人だから。
 だから、俺は必死に繋ぎ止めようとしている。

「だから、別に青峰っちに勝つためだけじゃないって言ってるじゃないっスか」
「……へぇ」

 行かないで。置いて行かないで。俺を見て。
 プレイヤーとして諦められたなら、もう、これしか方法が見付からないから。

 こうして今日も俺は青峰の瞳の中に映り込む。



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