青黄
「お前ってホント、ムカつくくれぇキレーだよな」
「え……っ、と……はい?」
そりゃ耳を疑いたくもなる。何せ俺の目の前に居るのはあの青峰だ。バスケと巨乳と堀北マイちゃん以外興味の無いあの、青峰だ。
有り得ない。今日か明日は空からバスケットボールが振ってくるかも知れない。否もしかしたらゴールリングかも知れない。
だから聞き間違いであることを祈りつつ俺は何とかトリップせずに心をここに縛り付け聞き直すことに成功した。
けれどもあろう事か目の前でLサイズのコーラをストローで吸っている色黒の男は全く同じ言葉を口にしたのだ。心底面倒臭そうに。
「あの、え、何で……急に?」
「別に急じゃねーよ。ずっと思ってたんだし」
「うわああああっ気持ち悪いっスうううう」
「あ?」
危うくトレイに乗っているポテトを全て床にバラ撒いてしまいそうだった。
ボールを操る手の平が俺の頭をいとも簡単に鷲掴みする。握力だって野生児の青峰は《掴む》と言うよりも《握る》が相応しい。つまり――
「いだだだだだだいだいいだいっス!」
「お客サーン、店内では静かにしろよな」
「誰のせいだと思ってんスか!」
頭を両手で保護するように抱えながら涙目で訴える。しかしそれも「誰って、お前じゃん?」などと平然と言ってのける辺りは矢張り本物の青峰だ。
俺の知る、青峰。
「いやでもマジな話、どうしちゃったんすか? 絶対いつもなら言わないじゃないスか」
「そうかもな」
「じゃあ何で言ったんスか」
少し冷めてしまってシナシナになったポテトを摘んでは口に運ぶ。
あ、でもやっぱ冷えてても美味しいかも。食感は残念だけど。
相手の返答を待つ間にも俺の指はポテトを摘む。
どうせ気紛れだとは思うけれど。
「何でって、そりゃお前……」
残りの短いポテト達を一気に摘んで口に運べば何故か目の前の男に手首を掴まれて阻止される。今度は《掴む》で適切だと思う。ただ少しギリッと骨が鳴いた気がした。
そしてそのまま誘導されるように俺の手(ポテト付き)は青峰の口元まで運ばれ、パクリ、と食べられた。
食べられた。俺の指ごと。食べ……
「ら、れ、ぇぇええええっ! ちょっ! アンタ何してんスか! ここを何処だと……っン、ちょ」
「ちったぁ黙ってろ」
いつの間にかポテトは指から離れ既に無くなっていた。にも拘わらず、青峰は汚れた俺の指を舌で舐めとる。
その度に吐息や感触が俺を刺激するものだから反応が顕著にならないよう抑えるのに必死だ。
「ん、ごっそさん」
「なっ、にっ……なにっ、な」
「うるっせぇな」
――黙れ。
かぷ、と音が鳴ったかは定かではない。けれども似たような感覚が塞がれた瞬間したような気がする。青峰のそれで塞がれた唇が、熱い。
「さっきからポテト食ってる指が何かウマソーでさ。つい」
「や……まじ、意味わかんな……」
「後、俺の方見ながら食ってる姿がエロくて欲情した」
「エッ! よっ!」
ああ、熱い。唇も顔も耳も首も体中、全部が熱い。俺、どうにかなっちゃいそう。
今ならそのコーラを頭からかぶってもいいかなとか。でもそうしたらベトベトだなとか。だけどもしかしたら青峰は喜ぶかなとか。
そんな事を考えてしまう原因は、あついカラダ。