早黄


 後輩は生意気だが愛嬌がある。
 そう思っていた早川に二年に進級したばかりの四月、海常高校バスケ部にも新入生が入ってきた。全国区の強豪と言うだけあってそれなりに入部希望者も多い。その新入生は当然後輩に当たるわけで、緊張気味の態度や此方が少し砕けると表情が比較的柔らかくなるのも愛嬌の一つだ。
 けれども早川の思う《生意気で愛嬌のある》のとはまた異なった意味を持つ後輩が一人、その中に居た。
 キセキの世代と呼ばれる彼が身に纏うのも《生意気で愛嬌のある》ものだ。しかしそれは似て非なるもの。全く別物であった。

「あー、見れば出来るんで」

 新入部員、否、バスケ部の中で最も浮いていた黄瀬涼太だ。
 第一印象は勿論最悪。早川のフラストレーションは溜まる一方である。けれども知ってか知らずか――十中八九後者であるが――黄瀬の態度は言葉通り生意気だった。
 しかし体育会系の中では通じる特有の敬語を使用しているあたり上下関係のルールは心得ているらしい。《センパイ》と呼ぶのも嫌々と言う気持ちは感じられない。

「応援ありがとうっスー!」

 初めて黄瀬を投入した練習試合で黄瀬がギャラリーに愛嬌を振りまくのを目の当たりにした。あろう事かその時はアウェイだったと言うのに。
 相手校の女子生徒は殆ど敵である海常を応援していた。流石の早川も相手に同情してしまう。これではどちらがアウェイなのか分からない。
 こういった《バスケに対する態度の生意気さ》と《サービスの一つである愛嬌》が早川は気に入らなかった。
 けれども誠凛との試合で黄瀬は変わった。
 それは部員全員が感じるくらい、そこでは大きな変化だった。それを機に黄瀬から入部当時のような生意気さは感じられなくなった。
 代わりに出て来たたのは早川が後輩に感じるそれである。
 そして愛嬌も、サービスから来るものではなく天然物を見せるようにもなった。

「ちょ、早川センパイ。さっきから何なんスか」
「何が?」
「や、あんまジロジロ見られると着替えにくいんスけど」
「あー……そうか?」
「そっスよ!」

 練習後のシャワーを済ませたばかりである黄瀬の髪はまだ湿っている。その証拠に毛先からポタポタと水滴が項や肩を濡らしていた。
 モデルと言えども中身は数ヶ月前まで中学生だった子供だ。そして何より男だ。そんな条件下だからなのかは甚だ疑問であるが、黄瀬の首から掛けたタオルとまさしく《パンツ一丁》のスタイルにモデルと言う肩書きは感じられない。
 しかしそれはあくまで風呂上がりスタイル――格好――に於いての話だ。
 半裸と言うよりは九割が露出している為によく分かる事が一つある。

「お前、本当にモデ(ル)やってたんだな!」
「ちょっ! ヒドッ! 今まで疑ってたんスか!?」

 早川自身、同性の裸など興味が有るわけではないがしかし黄瀬の体は意味もなく目を惹かれる。
 バスケで鍛えられた筋肉はしっかりと付いている。なのにその身体を描くラインはとてもしなやかで筋肉質さを婉曲しているように感じた。
 帝光出身はそうなるのか。とも思ったが黄瀬よりもバスケ歴が先輩に当たる黒子を見る限りそれはない、と直ぐに捨てた。

「黄瀬ってスゲーな」
「いやもうマジ意味分かんないっス。笠松センパーイ、助けて欲しいっスー」
「あ? 知るかバカ。っつかいつまで裸で居る気だよ! シバくぞ!」
「イッテ! ちょ、早川センパイが熱視線送ってくるから着替えるに着替えらんないんスってばぁ〜」 きゃんきゃんと笠松に泣き縋る姿は将に飼い主とペットだ。只今躾中と言ったところか。
 身長は黄瀬の方があるのに矢張り見た感じ筋肉質と感じるのはキャプテンだ。そんな事を考えながらふと気付く。自分の考えが一つ間違いであると。

「っもー! あんまりバシバシ叩かれるとバカになるっス! 笠松センパイのせいて!」
「安心しろ。お前はとっくの昔からバカだ」
「ヒドイッ! 森山センパーイっ、笠松センパイが苛める〜っ」

 黄瀬本来の愛嬌は初めから見せていたじゃないか、と。誠凛に負けるよりもずっと前からそれは引き出されていたのだ。
 唯一彼を本気でシバく事が出来る我等がキャプテンによって。

「今の黄瀬の写真でも撮(れ)ばそ(れ)売って部費に回せ(る)んじゃないっすか!?」
「ちょっと急に何言い出すんスか! それでずっと見てたんスか!?」
「おー、良いじゃんそれ」
「笠松センパイ!?」
「俺も一肌脱ごう」
「森山は黙ってろバカ」
「先輩に楯突くとは生意気なッ」
「早川センパイはセンパイって言うかどっちかって言うとヘンタイっス!」

 やっぱり黄瀬も《生意気で愛嬌のある》後輩に変わりはなかった。
 ちゃんと冗談が伝わっていると言う何よりの証拠が楽しそうな表情に出ているから。



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