黒黄


 リアルタイムで呟く某巨大SNSで流れてきた文章に少なからず救われたのは確かだ。けれどそれもほんの数瞬の出来事である。矢張りなだらかな胸を見れば溜息ものだった。

「黒子っちになりたいっス」

 最近決まって一度は口にする。会う度に言われるので黒子も段々鬱陶しさを感じていた。

「嫌味ですか」
「ち、違うっスよーっ!」

 帝光中学の体育館で、得点板の両脇に立ちながら黒子と黄瀬は会話をしていた。目の前のコートでボールが右へ左へ流れていく。均衡が崩れそうに無い緊張した場面であるが、コートの外側はそうでもないらしい。
 黄瀬は申し訳程度に膨らんだ胸を両手で中央に寄せた。それでも左右の胸が付くか付かないかと言う程の物である。つまり青峰的観点から言えば、黄瀬は胸が「ない」。
 一方、反対側にいる黒子の胸部は立派な膨らみがあった。寄せずとも下着を着用すれば、谷間が出来上がる。同じく青峰的観点から言えば、黒子は胸が「ある」と言うことだ。

「黒子っちと私って悉く正反対で、何か、女としてのコンプレックスが刺激されちゃうんス」
「遠回しに敬遠してるんですか」
「違っ、だから違うんスってば!」

 そうじゃない。弱々しく呟きながら黄瀬は自分側のチームの得点を二点追加する。その直ぐ後に黒子も二枚分捲ったので点数に差は無い。

「黒子っちは女の子らしい女の子なんス。小柄で、でもおっぱいは大きくて、太り過ぎでも痩せ過ぎでもなくて、周りを良く見てて、可愛くて……。でも私はその逆だから。身長だけはデカいのにおっぱいは小さいし、薄いから抱き心地は良くないし、一人で突っ走っちゃうし、チャラいって言うか軽く見られちゃうし……」

 ぐすぐす鼻を啜りながら言葉を紡ぐ黄瀬はに黒子は口を開く。しかしタイミング悪くタイマーがカウントを終えた事を知らせるブザーを鳴らした。
 ボールがコートから黒子へとパスを出される。それを忌々しげに受け取ると得点板のキャスター付近に置いた。ボールを投げた青峰は理由も分からず睨まれた事に怪訝な表情を見せるが、黒子は小さく舌打ちするだけで、益々表情に困惑の色が浮かぶ。

「丁度休憩みたいですから、良かったのかも知れません。が、話をぶった切られたのは矢張りいただけません」
「黒子っち?」
「黄瀬さん」
「はいっス」

 黒子が手招きをするので素直に其方へ向かう。正面に立てば黒子の手が肩を掴み反転させられた。黄瀬の視界には汗を拭ったり水分補給をしたりする部員が見える。しかし背中側に黒子がいるので彼女の顔は全く見えなかった。

「黒子っ、ちぃぃいやあああっ!」

 名を呼ぼうと開いた口からは末尾が高音の叫びを伴った声になってしまった。と言うのも、黒子が背後から黄瀬の胸を鷲掴みしたからである。
 彼女の叫声に休憩中の部員が何事かと一斉に二人の方を見る。しかし飛び込んできた光景に誰も反応する事が出来なかった。その、女子同士ならではの接触が羨ましいなどと口にしようものなら後々どんな目を見るか想像につくからだ。

「黄瀬さんは、勘違いをしています」
「ひぁ、あっ、んっ……勘、違い?」
「そうです。良いですか。先ずは黄瀬さんの存在が女性の憧れの塊であることを自覚してください」
「あっ、アッ……そ、な……だめっス」
「聞いていますか?」
「は、はいっ」
「宜しい。続けますよ」
「つ、続ける前に、手、離……して、欲し……んンッ」

 マッサージを施すような動きに合わせて黄瀬のシャツが影を作る。また、黒子の胸も彼女の背中に押し付ける形になっている為、変形していた。
 まさぐる手の動きを止めようと黒子のそれに自分の手を重ねる。けれど与えられる刺激に対し敏感に反応を見せる身体は力が入らなかった。同じ女だからだろう。黒子は的確なポイントを攻め立てる。

「その身長の高さは確かに女性にしてみれば高過ぎかも知れません。ですが胴と脚の比率を見ればそんなマイナス要素はあって無いようなものです。そもそも君の身長云々はジャパニーズサイズですよ。もっとワールドサイズで見てください。そのスレンダーさは日本人で手に入れる事が出来る人なんて稀です」
「ふ、あ……い」
「胸のサイズですが、黄瀬さんはとても形が良いです。大きさだけが全てではないでしょう。それに胸を育てる楽しみと言うものもありますし。第一大きい胸があると着られる服が限られてきます。その点黄瀬さんは何でも着こなせるじゃないですか。モデルなんですから胸のサイズを気にすることはありません。後、モデルで巨乳ならボク以上の肩凝りも考えられますよ」

 普段の黒子からは考えられない程の饒舌さに一同唖然としている。しかし内容が内容だけに、真顔で他人の胸を揉みながら熱く語る姿は何とも言い難い。その堂々たる言動は、どこか男らしさを感じる。その点で言えば部内一かもしれない。

「抱き心地は筋肉のある男性からしてみれば物足りなさを感じるでしょうが、ボクからしてみれば丁度良いです。お尋ねしますが、黄瀬さんはこのむさ苦しいバスケ部員の誰かに抱き締められるのとボクに抱き締められるのとではどちらが嬉しいですか?」
「……く、ろこ、ち」
「そうでしょう? でしたら悲観することなんて全く無いじゃないですか。違いますか?」

 黒子の問い掛けに静かに頷く黄瀬を、黒子は腕を胸の下に回して抱き締めた。少し速い黄瀬の鼓動が伝わってくる。
 優しい声音で話す黒子はその声に似つかない顔で、傍観している部員達を見た。それは勝ち組だけが許されるドヤ顔と言っても良い。勿論、同じ方向を向いている黄瀬は黒子がその様な表情をしているなど考えもしないだろう。

「黒子っちぃ……」

 再び身体を反転して向かい合わせになる。正面からみた黒子の顔は、とても穏やかなものだった。

「黒子っち、大好きっス!」
「知ってます。ですが、君も知っていてくださいね。ボクも黄瀬さんが大好きですよ」
「黒子っちーっ!」

 熱い抱擁を眼前に、冗談なのか本気なのか区別し難い愛の告白劇が繰り広げられる。黄瀬の肩越しに見える黒子の顔は矢張り勝者のそれであって、同時に、背中に回した腕は右手がピースサインを作っていた。
 これは遠回しの宣戦布告である。勿論、黒子から、バスケ部員への。

「まだ黄瀬さんは渡しませんよ」

 そう、黒子の双眸が語っていた。



以前行ったアンケートに書いてくださった方がいらっしゃいましたので使わせていただきました!
♀黒黄ちゃん!可愛いです!
黒子が巨乳と言う所がまたいいですね。多分桃井は桃井君♂だと思います。



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