紫黄
頬張る。咀嚼する。嚥下する。頬張る。
繰り返される一連の動作をひたすら見つめる黄色い頭と、それに見られ続けても尚動作を止めようとしない紫の頭があった。
学校生活の中で最も長い休み時間――昼休みのことだ。
ざわつく教室の中で黄瀬は椅子に横向にて座って背凭れと机に腕を載せていた。その後ろの席で紫原がスナック菓子を貪っている。
黄瀬の席は元々真ん中の列の後ろであったが、昼食を食べる時は決まって紫原の席へと移動するのだった。彼の席は窓際一番後ろという特等席で、この時期は日当たり良好、先程のような座り方をしても背中に壁があるので背凭れも出来る最高の場所なのだ。
「紫っち」
「んー? あげないよー?」
「いらねェっス。そうじゃなくて」
「なぁにー?」
「それ、美味しいんスか?」
それ、と指を指して紫原が手に持つお菓子を見る。自販機で売っていた紙パックのアセロラジュースを飲みながら黄瀬が尋ねた。
「食べる?」
「いやだからいらねェっス。って言うかさっき‘あげないよ’とか言ってたじゃないスか」
「そうだっけ?」
「そうっスよ」
袋を漁る音。ジュースを吸引する音。
咀嚼する音。液体を飲み込む音。
そんな他愛もない音がやけに耳に残る。気になるのは、音だけなのだろうか。
音だけ、のはずがない。
「黄瀬ちん」
「紫っち」
同時に紡がれた言葉にお互い目を丸くした。それ以上言わずともお互いに何を言わんとしているのか伝わっているようだ。
紫原は食べかけの棒状のスナック菓子を黄瀬の口元へと運び、黄瀬は飲みかけのジュースを紫原の口元へと持っていく。
そして、笑いながらお互い口にそれを含んだ。
吸引する音。咀嚼する音。
――自分の音。
この後お互いに不味いって言って口直しをすればいい。