相棒黄


「Wow. This is a wonderful invention!」
「How about that! Japanese is genius!」

 瞳を輝かせて黄瀬宅で寛ぐのは隣同士に座る氷室と火神だ。そう珍しくもない、寧ろ非常に馴染み深い物に対して二人の反応はヒーローショーでヒーローを目の前にした子どもと同じである。
 まさかその様な反応をされるとは思いもしなかった黄瀬は、折角だからと畳を外した。それに又二人は揃って感嘆の声をあげる事になる。

「今何て言ったんスか?」
「素晴らしい発明だって言ったのよ」
「ほんで、日本人は天才やて」
「ちょっと大袈裟過ぎねぇ? 高々掘り炬燵だぜ?」

 そう。氷室と火神は黄瀬家のリビングの一角にある座敷の炬燵をすっかり気に入っていたのだ。しかも只の炬燵ではなく、掘り炬燵である。椅子に座る要領で脚を伸ばす事が出来る、と言うのが魅力らしい。
 炬燵は見た事も入った事もある。けれども掘り炬燵は未体験のようだった。長年アメリカで暮らしていれば、炬燵と関わる事もそう無いだろう。

「ここでまさかの帰国子女発揮とか……っ!」

 蜜柑の皮を剥きながら高尾が笑う。そこでハッとした黄瀬は炬燵から足を抜くと、リビングを出て行った。
 その行動が読めずに疑問符を飛ばす高尾と実渕は顔を見合わせながら首を傾げる。何となく考えが読めたらしい今吉は、未だに炬燵で至福を感じている氷室と火神を細めた目で見た。

「大方、君らが体験した事の無い日本の冬の凌ぎ方、でも持って来るんちゃうか?」
「えー、何すかソレ」
「でも涼ちゃんの家にまさか火鉢があるとは思えないし……」

 暖炉は巻が必要だが炬燵はスイッチ一つで暖かい。そして机を皆で囲み暖を取るスタイルが新鮮に映ったのだろう。帰国子女の二人は大層気に入ったようだ。
 高尾が二つ目の蜜柑を手にした時、再び黄瀬が現れた。その手には分厚い衣類が乗っている。

「はいっ! 辰也サンと火神っちはこれ着てみて!」
「あらやだ。半纏じゃないっ」

 黄瀬が氷室の肩に掛けたのは花色の生地に浅縹あさはなだや浅葱色等の薄い色で描かれた縦縞の半纏だ。そして火神には金赤の生地に深縹こきはなだと山吹色の格子模様が描かれている物を渡した。
 綿がたっぷり詰まったそれは日本の冬に大活躍する。普段、フリース地のガウンやジャージを着ている彼らにとっては物珍しさを感じた。

「リョウタ。これ、袖が足りないけど?」
「それでいいんスよ」
「何で短いんだ?」
「え……さぁ?」

 完全冬使用になった氷室と火神が身体を捻ったり腕を伸ばしてみたりして半纏を観察する。素朴な疑問を投げられた黄瀬だが、それに答えられる程の知識は無い。助け船を出したのは日本の中でも和を感じさせる地域に住む実渕だった。

「それは半纏が和服だからよ」

 和服とは元来短い衣類である。褞袍どてら姿のおじさんの袖の下にはラクダの下着が覗いている、と言う場面をテレビや映画等でも見たことがあるだろう。

「半纏は小幅って呼ばれる和服用と同じ反物で作ったのよ。生地の布幅が袖の幅になるの」
「せやから中途半端に長うするんは邪道やで」

 勉強になったやろ? 今吉の笑みが深くなる。何だかんだ言っても矢張り年長者のオーラが滲み出ていた。

「でも、外で半纏を着て出歩く人って見ないね」
「流石にご近所付近ならまだしも、それ着て街中ってのは無理あるっしょ」
「何か半纏は室内ファッション? みたいな感じっスかね」
「洋服が主流になった今は特になぁー」
「涼ちゃんが半纏姿で雑誌に載れば流行するかも知れないわよ?」
「おおっ! 玲央ちゃんナイスアイディア!」

 半纏談義が続く中、実渕は皆の湯呑みにお茶を注ぎながら話に混じる。それに反応したのは高尾だが、笑いを堪える表情だ。

「アカン。半纏でキメるモデルが両開きの一面に並んどる思うたら、何や、シュールやな」
「あら素敵じゃない。半纏男子」
「ぶはっッ! 小花柄とかいいんじゃね?」
「最近は和柄の龍とか戦国武将の家紋とかあるらしいで?」
「無地もシンプルで良いと思うわよ?」
「他人事だと思って……。笑いながら言われてもって感じなんスけど」

 足元からじわりじわりと温まる炬燵と同じ様に、団欒によって彼らの心中もまたゆっくり温まるようだった。
 今年の冬は、どうやら例年よりも随分暖かいらしい。



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