不源


 イライラもするし、ムカムカもする。腹立たしくて、気持ち悪い。
 ズキズキしていて、キリキリしてる。頭が痛くて、腹痛もある。
 それらの症状と共に必ずと言っていい程併発する症状がある。どう言い表すのが適切かも分からないそれは心臓を鷲掴んでは握り潰す勢いで締め付けて苦しくて堪らないのに、どこか心地良い。敢えて例えるならば……。

――ドキドキ、だ。

「まただ」

 帝国学園に転入してから数ヶ月が立ち、今や司令塔を勤めるまでになった。それは別にいい。そうなると分かっていた。
 しかしこの原因不明の体調不良はなんなんだ。

「源田先輩っ! 今日どこか寄り道しませんか?」

 計算高い後輩が源田の腕に自らのそれを絡める。地声よりも幾らか高い音を甘ったるさを加算してすり寄っている。

「買い食いは校則違反だぞ?」
「じゃあ、デパ地下なら買わない食いですよ!」
「ぷっ。眉神、お前まだそんなセコいことやってんのか」
「成神ですって何回言えば分かるんですかアクマ先輩」
「はあっ!? 喧嘩売ってるのか先輩に対して!」
「え〜、嫌だなぁ。そんな訳ないじゃないですかぁ。ね、源田先輩」
「え、あー……そう? ……だな」
「んなわけあるか!」
「ちょーっと母音が強めに出ちゃっただけじゃないですかぁー」

 賑やかな遣り取りは真・帝国では勿論、イナズマジャパンでも見たことが無かった。
 煩い、喧しい、騒がしい。ただそれだけなのにそれを中和するような奴の存在。

「源田」

 ちょっと来い。
 それだけ言って俺は奥の倉庫へと姿を消す。背中越しに何か聞こえたが生憎どうでもいい情報は全て流す方だ。

「不動、どうしたんだ?」

 薄暗い倉庫に来るよう仕向けたのは紛れもなく俺だ。なのにどういうわけか体調不良が悪化する。
 ドキドキがバクバクも混じるようになった。これでも体調管理には気を付けている方だが。
 しかしこれらが起こるのはいつだって源田が視界に入った時だ。こいつが病原体なのか?
 馬鹿馬鹿しい。

「お前、今日は俺に付き合え」

 こんな誘い言葉、わざわざこんな場所で言うなんてどうかしてる。
 けれども源田は痛いそこを突くわけでもなくキョトンとした顔からふわっと笑顔に変わったら益々鼓動が激しく鳴る。
 おいおい。勘弁してくれよ。試合だってこんなに痛くならねーぞ。
 どうやら他の痛みを突いてきたらしい。矢張り源田が悪いのか。

「俺で良ければ、喜んで!」

 あーあ。
 もう戻れない。何となく、今、そう思った。俺も結局生意気な後輩と我が儘な同級生と同じだってことだ。不本意ながら。
 やっぱり、お前のせいだ。源田。
 この何も知らないような平和な笑顔を俺は独り占めしたいと、あいつらにだけは絶対に負けないと、漸くこの不可解な症候を理解した。




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