砂木源
好きだと自覚し始めたら後は体が勝手に動いた。口は誘い、腕は誘導し、足は移動し、体はさり気なく逃げ道を遮断する。
全ては自分が臆病だからに過ぎない。
隣で眠る源田に優しい眼差しを向けながら汗で額に張り付いた前髪を梳く。
昨夜の行為が鮮明に脳裏に浮かぶと下半身がずくりと疼いた。泣かせ過ぎただろうかとほんの少しだけ反省ばかりしているものの後悔など微塵も感じてはいない。一体何を悔やむと言うのだろうか。
寧ろ後悔しているのは源田の方ではないだろうかとさえ不安になる程に、砂木沼は執心している。
「ん……」
もぞもぞと身じろぎ、やがてうっすらと閉じていた瞼を開ける。まだ微睡んでいる表情もまたソソる。
こんなにも自分を翻弄する存在になるとは思いもしなかった。何とも嬉しい誤算である。
「さぎぬま?」
寝起き特有の拙い口調で名を紡ぐ。
ただ呼ばれただけであるのに胸の内からじんわりと熱くなる。
「お早う、源田」
「ん……おはよう」
頬を優しく撫でればそっと手を重ねてくる。そして徐に指を絡めて源田はふにゃっと幸せそうに笑った。
ズレた毛布の間から覗く白い肌もその肌に影を作っている鎖骨も何もかもが愛おしく、同時に理性という基本鉄壁でないといけない防壁をいとも簡単に崩れ落ちていく。
まだまだだなと自分の未熟さを叱咤しながらもしかし相手が源田では仕方がないと甘やかす。源田だから、なのだ。
そっと寝起きの彼にキスのシャワーを降らせば腕を首に回してそれに応える。徐々に徐々に激しさを増し、貪るようなものへと変わる。
小さく声を漏らした時には既に逃れることは出来なかった。
「砂木沼……? あ、朝だぞ?」
「そうだな」
「いや、だから……ァッ、ン」
首もとに顔を埋めてその味を堪能する。そこが弱いと知っているからこそだ。
「砂ぁッ、……木、沼……」
「腰が揺れているが?」
「やっ、ちがっ」
「違わない」
何も身に纏っていない体のラインを指でなぞれば嬌声を上げる。ビクビクと震える体に砂木沼の口元は孤を描いた。
「昨夜だけでは物足りなかったか?」
物足りないのは自分の方であるのに。
どんなに愛し合っても、どんなに愛を注いでも、足りない。体はどんどん欲が増す一方でもっともっとと求めてしまう。
「そうじゃないっ……けど、もっと欲しくなる……」
砂木沼に貪欲みたいだ。と困ったような表情に照れと欲情が混ざった顔をして見つめる。
いよいよ歯止めが効かなくなった。もう後戻りは出来ない。
逃げ道を絶たれたのは、もしかしなくとも自分の方かも知れないと熱を帯びていく自身を感じながら思った。