繋いでいたい


所用で鬼道に会いに放課後雷門中へ行ったら、グラウンドがもう直ぐと言う所に来て変な奴らに絡まれた。水道が沢山ついているが周りが泥だらけなことから、恐らく運動部御用達なのだろうと推測出来る。制服を改造した三人の雷門生が俺を取り囲んだ。

「何か用ですか?」
「あ゛?俺達の縄張りに勝手に入って来て『何か用ですか』だあ?」
「ナメてんじゃねぇぞゴルァ」
「やられてぇのか!」

縄張りもなにも、此処は雷門中の敷地内なのだからこいつらの私有地ではない。それに、どちらかと言えばサッカー部マネージャーの雷門夏未とか言う子の私有地なのでは?

そうしてじりじりと距離を詰められるが、もしどいてくれないのならパワーシールドを使ってしまおうかと考えた。しかしいくら何でも他校生相手に、と言うのか気が進まない。そうやって危機感は全く感じずに今をどう切り抜けようか悠長に考えられたのは何故だろう……と思考が全く別の方向へと行ってしまった。

ああ、そうか。

「何シカトかましてんだ!」
「ふざけんな!」
「ぶっ殺す!」
「咲山だ!」

思い出してすっきりした顔の俺とは裏腹に目の前の3人の顔は引きつっている。どうしたのだろうか。

「大丈夫か?具合でも悪いのか?」

急に大量の汗を掻き何も言わなくなった三人があまりにも不自然過ぎてつい、心配してしまった。これもいつもの癖か。

「さ、さ、咲山って…」
「知ってるのか?帝国学園2年の咲山修二」
「咲山……っ!お、お前……もしかして……咲山の……」
「咲山は仲間だぞ?凄く頼りになるんだ。あいつ、強いだろ?」
「咲山を、あいつって……!」
「うわあああっ!すんませんっしたああああああ!」

何かに怯えながら一目散に逃げて行く三人に首を傾げる。いきなりどうしたのだろうか。取り敢えず、道を空けてくれたので良しとしよう。改めてグラウンドに向かって歩き出した時、背後から名前を呼ばれた。

「源田!」
「あれ、咲山……どうした?」

振り返ると顔の半分以上を隠している咲山が此方に向かって走ってきていた。俺は咲山が来るまでその場を動かずにいたから直ぐ目の前に来た。

「お前、手ぶらで行ってちゃあ世話ねぇな」
「え?あっ!」

咲山の手にはA4サイズの茶封筒。それを見て初めて気付いた。

「わざわざ届けてくれたのか、有難う」
「別に。丁度良かった」
「何が?」

封筒を受け取りながら訊くと、はぁ、と呆れたような溜め息を吐かれる。

「源田が心配だっただけだ」
「迷子にはならないぞ」
「じゃなくて、変な奴らに絡まれたりとか……」
「ああ、それなら」

今し方起こった出来事を話すと、咲山は驚いた表情をした。無事だったのだから何も心配することはないのに。

「咲山の名前を出したら何故か怯えていたぞ?お前、何かしたんじゃ……」
「別に何も。っつーかいちいちやり合った相手なんて覚えてねぇ」
「咲山……」
「それ、鬼道さんに渡すんだろ?」
「ああ、そうだ!折角だから咲山も一緒に行こうっ」

何だか話を誤魔化された気がしたが、取り敢えず今は何も言わないでおこう。

昔は荒れていたかも知れないけれど、今はこうして手を取ってやると呆れたような戸惑ったような優しい笑い方をするんだ。それが、今の咲山なんだ。それだけで充分だ、そう思った。

だから、昔の軌跡が残っていてもそれがいつか咲山を苦しめることにならないよう願うしか俺には出来ないけれど、俺はいつだってこうして暖かい彼の手を繋いでいたいと思う。それが、俺に出来る唯一のことだから。







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