本音と冗談と


「ユッケ」
「はい?」

突然言葉を発した人物は我が物顔で私のベッドに寝そべっている。先程まで熟睡していたので寝言かとも思ったが、明らかに袖を引っ張られているので残念ながら覚醒しているようだ。

「ユッケが食べたいよチャンスゥ」
「寝起きで良く言えますねアフロディ」

食べたい、と言っている割にはベッドから起き上がる気配はない。枕を抱き締めながらも片腕は依然として私の袖を掴んでいる。

「食べたいんじゃないんですか」
「うん、食べたい」
「じゃあさっさと支度して下さい」
「何を言っているの?チャンスゥ」

それは此方の台詞ですと言いたくなったが寸での所で飲み込んだ。彼の瞳は私だけを映し逸らされる兆しも見えない。ああ、そう言うことですか。

「私に作れと?」
「うん」

さも当然と言わんばかりの返事に深い溜め息が出る。私がアフロディに対して溜め息を吐くのはもう何度目だろう。彼はサッカーのプレーについては非の打ち所が無い。しかし性格にやや難があるようだ。彼が連れて来た涼野と南雲も個性的ではあるが彼ほどではない。少なくとも初対面でいきなり「伴侶」発言なんてしなかった。

「食べたいなら自分で作ればいいでしょう」
「どうして?」
「私は別に食べたくありませんから」

この言葉は失言だったのだろうか。ついそう考えてしまうほどに未だに寝転ぶ彼の思考は人の斜め上をいっているようだ。

「そうか。チャンスゥは僕を食べたいんだね!」

真顔で言うものだから冗談と取るべきかいつも迷う。こうして結局私は台所に立つ羽目になるのだが、もしかしたら彼の作戦の一つなのかもしれない。実際、あの言葉の本当の意味を知るのはもう少し先のようだ。




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