ノンフィクション>フィクション


人が赤黒い液体を体のあちこちから流して倒れている。その光景が目に飛び込んできたのは10分程前だった。勿論実際目の前で起こっているわけではない。なぜならそれはテレビジョンと言う薄い箱の中での出来事なのだから。

それをバニラアイスをくわえたまま食い入るように見つめる男を同じように見つめる男がいた。何とも滑稽な絵図ではあるが、お互いに真剣なのだ。

「晴矢」
「……」
「晴矢、垂れてる」
「んー…うぉっ」

口内の熱によりくわえていた部分から溶け出したアイスは重力に従って下に落ちていく。それにより服には染みが出来ていた。

滴り落ちるアイスがその白い足に跡を残した時、漸く気が付いたらしい。驚きの声と共に口から出された肌より白いアイスは酸素に当てられた。出す際に唇の端から液体と化したアイスが緩やかに一線を描いた。

「ったく…」

顎へと到達したアイスは風介の舌によって姿を消した。ついでと言わんばかりにそのまま床に押し倒す。その勢いに乗せて唇を奪うと胸部辺りがひやんりと冷たい感覚がした。

晴矢が時折漏らす小さな反応の声は風介のせいなのか、アイスのせいなのかは分からない。そのまま唇を貪っているとぴくんと体が震えた。

「バニラだ」
「っと…バカ!」

恐らく「当然だ」とでも言おうとしたのだろう。しかし酸素が不足している晴矢が言える精一杯の言葉は罵声だった。

風介は二人の間に挟まれ無惨にも棒だけが残ったアイスの跡に触れる。大きな染みは濃い色となりその存在を主張していた。そしてそれを指でなぞる。

「ちょっ、バカッ…風介っ!」
「体は嬉しいって言ってるのに」
「っざけんな!」
「じゃあ、もう一人の晴矢に訊いてみようか?彼は君と違って物凄く正直だからね」
「うわっ!バカッバカふざけんな!ヤメロバカッ!」

染みを撫でていた手を下へと移動させる。瞬間、晴矢の顔が真っ赤に染まった。あまりにも必死に請うものだから風介は再び唇を重ねる。五月蝿い口を封じるように。

「じゃあ、その口で正直に言って」
「な、何を…」
「晴矢が嫌だと拒むのなら、私は今すぐにでも君から離れる。それを望んで」
「ない」

急に声を張り上げた晴矢に風介を虚を突かれたように目を丸くする。もう一度聞き直そうと言葉を紡ぐ前に晴矢が口を開いた。

「俺が…、今までお前を拒んだことがあったかよ」
「晴矢…」
「風介に拒まれたら…俺、もう死ねる」

話が飛躍し過ぎて思わず言葉が詰まる。しかしそれは嬉しい誤算だった。今にも泣きそうな顔の晴矢が愛おしく感じる。けれども晴矢以上に素直になれない風介は嬉しさを隠す為に噛み付くようにその唇に吸い付いた。

言葉に出来ないけれどその分は態度を以て示す。それは晴矢も重々承知していた。伊達に長年同じ時間を共有していない。

「私が晴矢を拒むことは残念だけど一生来ないよ」
「俺だって!」

いつの間にかテレビは天気予報を流していた。今、晴矢はいっぱいいっぱいのようでその事に気付いていない。しかし後々機嫌を損ねる可能性だってある。

(明日レンタルしてくるか…)

はて、タイトルは何だったか。晴矢に訊いて覚えていたら借りに行こうと一度立てた予定をその場ですぐに改めた。しかしそれもどうでもいいとさえ思う。今はそんなことよりも、目の前のノンフィクションに夢中なのだ。

一度拒まれた風介の腕が二度目に拒まれることは無かった。





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