至近距離


道が悪い為にガタンと何度目か分からない揺れが起こる。
その度にゴン、と隣の源田先輩は窓に頭をぶつけていた。

「…った」
「先輩、大丈夫ですか?」
「んー…」

寝ぼけているのか、返事はゆっくりだ。

俺達が乗っているマイクロバスは、何処に向かって走っているのかさっぱり分からないが、取り敢えず道が悪い所を走っているのは確かだ。

ネオジャパンとして招集された俺達の、短い期間の合宿が今日から始まろうとしていた。否、もう始まっているのだ。

今、俺の隣には源田先輩がいる。
佐久間先輩じゃない、鬼道先輩でもない、洞面でも辺見先輩でも寺門先輩でもない、この俺、成神健也が源田先輩の隣にいる。

この時をどれほど待ち続けただろうか。
いつも源田先輩の傍に居るのは佐久間先輩だ。
少し前までは其処に鬼道先輩も加わっていた。
一年の俺が加わる余地何て何処にもなくて、一年生と云う事実を口実に甘えることしか出来なかった。

だけど、今は違う。
実力で源田先輩の隣に居るんだ。
俺は、選ばれた。

すやすやと眠る源田先輩を見ながらそんな事を考えていると、先程よりも大きい音が響いた。
ゴン、と云うよりは寧ろガン、に近かったかも知れない。

「い、…たい」
「先輩…?大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫…だ」

気持ち右寄りの額をさすりながら俺の問いに答えるこの人が愛おしくて堪らない。
ヘッドホンから聴こえる音楽よりも源田先輩の声が聴きたい。

再び眠る体勢に入った先輩に「あの、」と話し掛けると、眠たそうなとろんとした目を此方に向けてくる。
無言で見るのは眠たいからなのだろう。
フィールドに入るとキリッと引き締まる顔も、今ではあまりにも甘い。
一体誰が今の彼を見て、トップクラスのGKだと思うだろうか。反語。

「……なるかみ?」

なかなか話さない俺を不思議に思ったのか、じっと見つめてくる。
ああ、ここがバスの中じゃなかったらなあ…何て邪な事を考えたけれど、別にバスの中でも俺は構わないかと一人で納得した。
寧ろ困るのは源田先輩の方なんだろうな。

「先輩、良ければ肩貸しましょうか?」
「……いいのか?」
「はい。先輩が良いのなら」
「じゃあ、お言葉に甘えて……」

そう言って先輩は、こてん、と頭を窓とは反対側に倒した。
先輩の髪の毛が首に当たって擽ったかったけれど、それすらも愛おしい。

先輩が頭をぶつけていた窓を見ると、景色は樹木ばかりで嫌でも山道であると認識させた。
木々の隙間から空や海が見えるかと思えばそうでもなく、ただただひたすらに木々のパレードが続くばかりだ。
正直、つまらない。

心の中で溜め息を吐くと、先輩に名前を呼ばれた気がした。
顔を右下に向ければ、目が開いた源田先輩と視線が絡み合う。
そして、ふわっと柔らかく嬉しそうに笑って口を動かすと、こてんとまた眠りに入ったのだった。

(先輩、それ、反則ですって……)

いつもの倍以上近い距離に居る先輩は、肌が白くて睫が長くて髪質はやや固めの可愛い寝顔と誘うような寝息を立てる人だった。

もっとこの人を感じたくて、少しでも傍に居たくて、俺の右肩で眠る先輩にそっと右頬を寄せて目を閉じた。


耳の奥に響くのはヘッドホンから聴こえる音楽ではなく、源田先輩の声。

瞼の裏に映るのは暗闇ではなく、源田先輩の柔らかい笑顔。

今、感じて居るのは、道が悪い山道を走る振動ではなく、至近距離にいる源田先輩だった。



――こんなに近い成神は初めてだな




*****
Neo Galaxy様に提出させて頂きました。(なんというネ申企画!)

バスの中で眠るのってはしゃぎ過ぎて疲れた成神の方なんじゃなかろうかと今更ながらに思えてきました。あれおかしいな。←
源田の寝顔は可愛いんだろうな成神その席替われ。


参加させて頂き有り難う御座いました!





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