アイス


バーンこと南雲晴矢は独り言を吐き捨てながら廊下を歩いていた。
その独り言と云うのも、全て愚痴なのだが。

「オラッ!風介!買って来てやったぞ!」
「……遅い」
「人を働かせておいて文句云うな」

乱暴に開けた部屋のドアを同じように乱暴に閉められた。
晴矢の部屋だと云うのに風介はベッドに寝転がって優雅に読書をしている。

「ねぇ、俺の頼んでたのは?」

勉強机を占領していたのはヒロトだ。
勉強なら自分の部屋でやれと云いたかったのだが、ヒロトに口答えすると後で何をされるか分からないので何も云わなかった。

「お前が頼んだのは物じゃねぇよ」
「何言ってるのさ。守君は僕のだよ」
「だったら自分で行けよ」

呆れながら吐き捨て、買って来たアイスが入っている袋を風介に突き出す。
それまでベッドを占領していた風介が起き上がり、ベッドに腰かけた。

「晴矢も座るといい」
「俺の部屋なんだよ」

我が物顔でベッドに座る風介を睨みながらその隣に座る。
コンビニの袋を開けたまま動かない風介を不審に思い、晴矢は顔を覗き込んだ。

「どうした?」
「……頼んでないのも入ってる」
「ああ、それ。何か俺も食べたくなってさ」

風介が一向に取り出さないので、晴矢が腕を突っ込んでアイスを取り出した。
手に持っていたのは、スーパーカップのみかん&ヨーグルト味とパピコの2種類。

「バニラ無くってさ」
「だったら店を変えろ」
「偶々円堂達に会って、豪炎寺がそれ食べててさ、俺も食べさせて貰ったら旨かったからいっかなーって」
「……」

ヒロトと風介の動きがピタリと止まった。
それに気付かず晴矢は話を続ける。

「円堂はパピコ食っててさ、片っぽ貰って旨かったから俺用に買って来た!」

食わねーの?と問い掛けると、風介からは曖昧な言葉が返ってきた。

「晴矢、私もそれがいい」
「へ?パピコ?じゃあ、片っぽ食うか?」
「待て!俺もパピコが食べたい!」
「ヒロトも?」

揃いも揃って一つのアイスを奪い合うことになってしまった。
予想していなかった事態に晴矢も戸惑いを隠せない。

「ヒロトにはスーパーカップをやる。私は晴矢とパピコを食べる」
「元々スーパーカップを頼んでたのは風介だろう?パピコは守君のチョイスなんだから食べないわけには行かないだろう?!」
「気持ち悪いストーカー行為はいい加減止めたらどうだ?」
「そっちこそ晴矢をこき使っておきながらその行為は迷惑極まりないんじゃないかな?自分勝手過ぎないかい?」

バチバチと静かに火花を散らすヒロトと風介に晴矢はただただ見守ることしか出来なかった。
そこで一つの案を閃く。

「じゃあ、ヒロトと風介でパピコ食ったら?俺はスーパーカップでもいいし」
「私は晴矢と食べたいんだ。ヒロトと分けたパピコ何て食べたくない」
「じゃあ食べなくていいよ。俺が食べるから」
「ふざけるな。アイスを頼んだのは私だ。そもそも何故ヒロトが食べる」

なかなか言い合いをやめない二人に晴矢は溜め息しか出て来なかった。
アイス如きでまさか喧嘩になるとは思いもしなかったのだ。

「ああもうっ!ずっと云ってろばかっ」

晴矢がアイスを持って部屋を出て行ったことにも気付かず言い合いを続けるヒロトと風介。

晴矢はそのまま部屋を出ると、驚いた顔で此方を見る3人が居た。
何故か晴矢の部屋の前に居たアイキュー、ウルビダ、そしてヒートはしまったと云うような顔をしている。

「お前ら、何してんの?」
「ばっ、ばったりバーン様の部屋の前で会ったんです!」
「ヒート…本気で云ってんの?」
「も…ちろ、ん」
「……まあいいや」

明らかに部屋の前に待機していたな、と思ったがこいつらも何か考えがあってのことなんだろうと思い、それ以上は何も云わなかった。

(だってあの2人がキャプテンだしな。そりゃ心配になるわな)

「ヒートが居る理由は分かんねーけど」
「はい?」
「なーんも。あ、そうだ。お前らにやるよ」

ヒートの手に渡したコンビニの袋の中には、先程ヒロトと風介が奪い合っていたアイスだった。

「バーン様…これ……」
「何かあいつら喧嘩するし。喧嘩中に食べても美味くねーし」
「バーン様」
「ちょっと溶けてるかもだけど」

それだけ言い残すと、晴矢は再び部屋の中に戻って行った。

その後、部屋の中からは喧嘩を仲裁する晴矢の怒鳴り声と、アイスを他の人に譲った事への驚愕の声、そして晴矢の叫び声が聞こえて来たとか。





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