七月七日
部屋に入ると、俺のベランダに木が生えていた。
正確に言うならば、立派な笹が何故か置かれていたのだ。誰の仕業か何て分かってる。今現在俺の目の前で黙々と短冊を作ってるヒロト以外有り得ねぇ。
「何してんだよ」
「あ、晴矢。君も書くだろ?」
「質問に答えろ」
「この部屋はアイスすら無いのか」
勝手に部屋に入っておきながら文句を垂れるゴーイングマイウェイな風介は、俺の食べかけのポテチを貪っていた。何なんだお前ら。
「今日はベガとアルタイルの逢瀬の日だからね〜」
「織り姫と彦星じゃねぇの?」
「織女と牽牛だ」
此処でピタリと空気が止まる。あからさまにわざとらしいため息を吐くヒロトがパンチに力を入れてガチャンと音を出した。きれいに穴が空いたのを確認するとお札を数えるように出来上がった短冊を数え出す。
「牽牛だとか織女だとか彦星だとかってそれは漢名だろう?星はやっぱギリシャ神話に基づいた方が味がでるでしょ」
「別に織り姫と彦星でいいだろっ」
「それでは幼稚過ぎるな」
小馬鹿にしたようなヒロトと風介の態度に俺の怒りのボルテージは上がる一方だ。そもそも何故俺の部屋に居るのか、と言う根本的な部分から甚だ疑問である。
「お前ら何で俺の部屋に居んの?っていうかベランダの笹は何だよ。七夕の習慣がやりたいならそっちで勝手にやってろよ!」
苛立ちを隠そうとはせず、半ば感情的に言葉を発した。それでも2人は退却する姿勢を見せなかった。
「晴矢と一緒に書きたかったんだ。俺と晴矢が明日にでも結婚しますようにって」
「晴矢、さっさと書け。まあ、お前の汚い字を逢瀬した2人が読めるかは別だが」
「お前ら2人揃って死ね」
そうやって暴言を吐きながらも何だかんだ言って短冊を一枚手に取る俺も、こいつらに感化されてきたのかも知れない。
(ヒロトと風介とこれからも一緒に居られますように)
……なあんて。
Eiria.07/07