うとうと


うたた寝というのは本当にいつ寝たのか自分では分からない。だから、いつから寝顔を見られていたのかすら分からない。目が覚めた時には既に相手が此方を見ているのだ。相手に訊いたところで答えてくれるはずもなく、適当にはぐらかされるだけだった。

「ほら、跡がついてるぞ」なんて普段は見せない優しい表情で言われたら益々恥ずかしくなって何も言えなくなる。そんな事もお見通しなわけで、だからわざと言っているんだっていうことも分かっているのに未だに反応に困るんだ。そして相手はそれを知っているからわざとやってくる。そんな些細なことも何だかんだで幸せだと後になってじわじわと感じる。

幸せだから、つい、また目蓋がゆっくりと下におりてくるんだ。眠っちゃだめだと頭では分かっていても体は随分と正直なようで、視界は再び暗闇に戻っていく。

座ったまま眠っていたからか目が覚めた時には痛かった首や腰も、今は全く痛みがやってこない。代わりに人肌の温もりが全身を優しく包んでいる。トクントクンと規則正しい鼓動を右頬で感じながら俺を包み込んでくれている彼を抱きしめ返した。安心させてくれる彼の匂いが眠りの淵へと誘う。

「30分だけだからな」

頭上から聞こえる静かな低音に黙って耳を傾ける。本当は「わかった」と返事を言いたかったけれど口が開いてくれなかったので小さく頷くことで気持ちを表した。

30分間の温もりに体を預けて、洋服を掴む手に僅かに力を込めた。次に目を開けるときにはきっとまた優しく笑って「おはよう」と言ってくれるのだろう。





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