アンサー
どうして、の後に続く言葉を頭に思い浮かべては消した。そんなもの、自分だってわからないのだから幾ら考えたって答えが出るはずもない。しかしそんなことを分かっていながらも性懲りもなくまた疑問詞から始まる言葉が脳裏を過ぎった。
「どうした?」
「え、あ…砂木沼?」
「随分と面白い百面相だったぞ」
練習中はキリッと引き締まったキャプテンの顔の砂木沼が、今は目を細めて笑っている。成神はギャップだと言っていたが、俺からすればオンオフのメリハリがきちんとついているだけだと思う。
とは言え普段からそう表情を崩さない砂木沼が笑っているのだ。そんなに面白い顔をしていただろうかと思わず両手を頬に当てた。グローブを外した手に伝わるのはほんのりといつもより高い熱だった。
「悩み事か?」
「あー…いや、そう言うわけでは…」
そこまで言いかけて口を噤んだ。ない、とは言い切れないなと思ったからだ。しかしこれを悩みと言えるのだろうかと言う疑問すら浮かぶ。そう呼べるとしたら何て贅沢な悩みなのだろうか。
「源田?」
「悩み…、なのか?いやしかしこれを悩みと呼んでしまってはもっと別のことで悩んでいる人に申し訳無いし…」
「源田」
「でも小さなことでも悩みと言えるか。そもそも悩みに大きさなんて関係な」
「幸次郎」
「うわっ、あ、え…砂木沼?」
悶々と考え事をしていたらすっかり砂木沼の存在を忘れていた。呼ばれた名前に反応した俺は俯いていた顔を上げる。上げたのはいいが、バチっと目が合った瞬間思い切り顔を逸らしてしまった。
何故か、無性に恥ずかしかったのだ。ネオジャパンとして毎日のように顔を合わせているのに。時々、まともに見られない時がある。
「フッ」
急にクスクスと静かに笑い出す砂木沼に疑問符を浮かべた。そんなに笑うほど面白い顔で悩んでいたのだろうか。笑いながら優しい手付きで頭を撫でる。
「どうして」
「え…?」
「その先に続く言葉の答えを教えようか?」
そう、それはまるで俺の頭の中を読んだかのように砂木沼の口から紡がれた言葉は滑らかだった。
読んだのではない。読まずとも彼ならば分かるのだ。それくらい、共に過ごす時間が多くなった。たった、それだけの事なのに。
「いや、遠慮しておくよ」
「そうか」
嬉しい、だなんて。
もっともっと一緒に居たら、もっともっと沢山のことが分かってしまうのだろうか。そんな疑問の答えも、きっと隣の彼に聞けば直ぐに解決してしまうのだろう。