おかしうりば
いやだいやだと駄々をこねられてどれくらい経っただろうか。一つのコーナーに留まって足を動かそうとしない三人組の背中を見詰める。
「いい加減にしないかお前たち」
溜め息混じりに言っても全く応じる様子が見られない。スーパーに連れて来るんじゃ無かった。そんな思いが脳裏を過ぎるが後の祭りだ。
霧隠を筆頭に成神と幽谷もお菓子コーナーにべったりだった。みんなお菓子コーナーに張り付く年齢では無い筈なのだが、身長的な問題なのかなんなのか不思議と似合っている。
「源田あ〜これ買ってー」
「俺、これが食べたいです」
「あ、の、僕…これ」
困ったことに三者三様好き勝手をしてくれる。お菓子を握られた手を見ながら俺は首を振った。
「ダメだ。お前たちだけ買ったら不公平だろう?」
「じゃあ、みんなの分買う!」
「そんな予算は無い」
「ヤダヤダ源田あ〜」
こんな押し問答が続いている。困ったなあ…と眉毛をハの字にして悩んでいると、ポケットの中に入れていた携帯がバイブで存在をアピールした。
「もしもし…あ、砂木沼」
ディスプレイに表示されていたのは監督の名前だったが聞こえてきた声は砂木沼のものだった。何でも買い物に行ったきりなかなか戻らないから連絡を取るよう言われたらしい。申し訳無い。戻ったら監督にも砂木沼にも謝っておこう。
なかなか帰れない経緯を砂木沼に話すと、暫く沈黙が続いた。呆れているのか何か方法を考えているのか。そして、矢張り呆れていたのだろう小さく息を吐く音が聞こえた。
『ならば買って来い』
「砂木沼?」
『監督には私から言っておこう』
「しかしだな…」
『荷物持ちの御駄賃と言う名目にしておけばいい』
「……分かった。だが、監督には俺からもきちんと話をする」
『ああ。では待ってるぞ』
いまいち納得していないが一先ず通話を終わる。くるりと振り返ると三人は依然としてお菓子を握り締めていた。三人の頭を軽く撫でたら自然と顔が綻んだ。
「ちゃんとみんなで分けるんだぞ?」
「やったあああ!サンキュー源田っ」
「わーいっ」
「ありがとうございますっ」
訴えるような瞳が歓喜の瞳へと変わる。無邪気な笑顔を見ていたら、つい、甘やかしたくなるのだから俺もまだまだだな、なんて苦笑した。
三人分のお菓子を籠に入れてレジへと並ぶ。会計をしている時に「砂木沼にちゃんとお礼を言うんだぞ?」と言ったのがいけなかったのだろうか。
合宿所に戻ったら霧隠、成神、幽谷の三人は真っ先にみんなが集まっているであろう大会議室に走って行った。そしてはしゃぐ声が壁と距離により遠かったが聞こえた。確かに、聞こえた。
「有り難うっお父さあああん!」
三人の靴を下駄箱に片付けている途中で思わず噴き出してしまったのを監督に見られてしまった。